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「M-1グランプリ」で戦うために

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いよいよ1週間後に迫った「M-1グランプリ」。
過去の例から見ても、ここで活躍をすればその後の人生を変えるといっても過言ではない大会である。もちろんこの大会に出る芸人は、それに向けて様々な努力をして挑んでいる。しかし、基本的にぼくらは、その完成されたネタしか見ることが出来ない。
そんな舞台裏を描いた貴重な資料としても一級品なのが昨年のM−1王者サンドウィッチマンの「敗者復活」である。


富澤たけしが、「M-1」に向けた準備について述懐している。

2007年のM-1に向けて、僕は集中的に研究を重ねていた。
紳竜の研究』など、完成度の高い漫才DVDを片っ端から見まくった。ただ見るだけじゃなくて、「間」を測る方法、言葉の使い方、ネタの磨き方、お客さんの的確なつかみ……取り入れるべきポイントを意識的にチェックした。過去のM-1決勝のDVDも繰り返して見た。決勝に進出したコンビが、何をやって、どういう技術を駆使しているか。神経を研ぎ澄まして、ネタを観察研究した。
島田紳助さんは公言している。「M-1は4分間の漫才の戦い。この4分というのが、大事や。この時間を分かった上でどう戦うか。効果的な戦い方を知ってるか。勝敗はそれで決まる」と。
その通りだ。4分というのは決して長くない。しかし一発ギャグでもたせられるほど、短くもない。いつものサンドウィッチマンのやり方では、この240秒で勝つことはできない。ネタ自体には自信があったけど、勝負するには、M-1バージョンにマイナーチェンジする必要がある。どこを、どう組み替えたらいいか。勝つための分析をすすめ、僕は静かにネタを磨いていった。


そして敗者復活を経て、決勝戦。
その出来は彼らの狙い通りだった。

「街頭アンケート」の滑り出しは上々だった。
 (略)
「このアンケートをどこで知りましたか?」
「お前だよ!」
のくだりでドッとウケて、会場の空気がウゥッとウェルカムに変わった。
いつものことだ。僕は平静だった。
誰も笑ってくれそうもない地方の営業に行っても、このポイントだけは絶対に笑いがとれる。テレビでは『エンタの神様』でしかやったことがない。M‐1の決勝でやれば、きっちりとつかめる確信はあった。
読みどおり、ウケた。
みんなの耳がこっちに集まる、つまりみんなが味方になる瞬間だった。これがいつも、最高に気持ちいい。

会場はサンドウィッチマンを後押しする空気になっていた。
そして、優勝決定戦のネタの滑り出しも順調だった。しかしここで思わぬトラブルが発生する。

「ピザのデリバリー」の滑り出しは、営業のときと同じ手ごたえだった。
遅れてきた配達人が「配達に行くかどうかで迷ってました」と言う頭のボケで、スタジオにドッと笑いが起きた。こうなったらあとは研究した通り。4分間での、最も効果的で笑いのとれる、デリバリー・M-1バージョンを展開するだけだ。
(略)
「腹たつなぁ、お前。……ムカつくなぁ」
と、伊達がツッコミを、2回繰り返した。
ん!?
2回目の「ムカつくなぁ」は台本にない。
意識的に伊達の視線を避けていたけど、その時パッと目があった。
伊達が、目でSOSのサインを送っている!
ヤバい! こいつ飛んでる! 次のネタが思い出せてない!!
(略)
最悪なのは、伊達の「飛び」が瞬時に伝染して、その先のネタを僕も思い出せなかったことだ。
(マズい……!! フォローしてやれない!!)
脳の中はF1エンジンのようにフル回転した。
どうする!? ここのネタはカットするか、だとしたらどこから始める!?
あそこか、ここか!? いや、あのくだりだ!!
待て、それだとオチまで4分を切る!!
じゃあ、あのネタを代わりにさしこむか!?
ダメだ、その後の流れにつながらない!!
どうしたらいい!?
何か思いつけ!!
すると‐‐‐伊達が。
「ふざけてるだろ、お前!」
と、フッとネタを思い出してくれた!

伊達みきおもこの時のトラブルを振り返っている。

この間、コンマ1秒ぐらいの出来事だけど、僕と富澤にしかわからなかった、サンドウィッチマンの史上最大のトラブルだった。
「ピザのデリバリー」でネタが飛んだことは、過去に一度もない。寝ながらでも暗唱できるようなネタだ。
なのに、あんなに焦らされるとは。
これこそが、M-1グランプリ決勝の怖さ、なんだろうと思った。
ネタが終わってから、感じたのは安堵感だけだった。
舞台を降りるとき、気づいたら両膝が、ガクガクと震えていた。

録画した映像を見ると、確かにほんの一瞬だがお互いの目が泳いでいるのが分かる。
しかし、このトラブルを乗り越え二人は優勝を手にしたのだった。




ところで、漫才を学術的にも研究している芸人サンキュータツオは、こうした「M-1」のネタの変遷を自身のブログの中の「サンドウィッチマンがM-1でしたこと」や「東京ポッド許可局」第49回“手数”論の中で語っている。その要点をまとめてみた。
タツオは、現在の「M-1」では、いかに手数を増やす、すなわち笑いどころを多くするかが鍵を握っていると言う。
例えば、やすきよやツービートの時代、テレビで披露されるネタの尺は10分程度だった。だから、フリが異様に長い。
そしてダウンタウンの時代になると、平均5分くらいに尺が短くなっている。結果、フリが短くなり、手数が多くなった。代表作「誘拐」を例に出せば3分半のネタ中、15回(約16秒に1回)笑いどころを作っている。
ダウンタウンは手数を多くするためにそれまで主流であった「しゃべくり漫才」から「漫才コント」*1を多用するようになった。「漫才コント」の利点は、フリを短くできるということ、そして、皆が共有する設定をつくることで、その常識を崩すだけで笑いを作れるということだ。


「M-1」ではアンタッチャブルが「漫才コント」の一つの到達点を披露する。
彼らは3分30秒のネタ中、実に38回、ダウンタウンの倍以上の笑いどころを作りだした。
この結果、「漫才コント」ではアンタッチャブルを越えられないという空気が生まれ、チュートリアルブラックマヨネーズの台頭を招いた。
すなわち、「しゃべくり漫才」への回帰である。
「変な人同士の立ち話」という昔ながらの漫才を復活させ、その質を高めることで、フリすら省略し手数を増やすことを目論み成功した。


一方で、昨年優勝したのはサンドウィッチマンの「漫才コント」だった。
すでにやり尽くしたかと思われた「漫才コント」を彼らは、一切役から離れない(修正しない)という方法で、それによる時間のロスをなくした。*2こうして生まれたのが富澤が述懐していた「M-1バージョンにマイナーチェンジ」したネタだったのだ。


今年の「M-1」で優勝候補最右翼と伝えられているのがナイツだ。
サンキュータツオは9月の時点でこう語っている。

今年、ナイツがM-1の決勝の舞台にいないのであれば、私は同業者として疑問を抱くだろう。
時代を象徴する漫才、そこまでナイツはきていると思う。

彼らはシンプルに言い間違いをツッコむ「しゃべくり漫才」に再び回帰した。
そしてツッコミを元にボケを考え出すことで1つのボケで2回以上笑いどころを作ることを徹底させた。その結果、実に5秒に1回、ピーク時には3秒に1回笑わせるネタを生みだした。(さらに彼らが凄いのは、1分でも15分でも同じフォーマットのネタを作れるという発見をしたことだ。)
はたして、彼らは「M-1」を制することができるのか?
それとも彼ら以上の革新的な漫才を作りだすコンビが現れるのか、あるいは手数ではなく、より爆発力を持ったコンビが勝利するのか、興味は尽きない。

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*1:「俺これやるから、お前これやって」というような漫才内にコントを組み込む漫才

*2:ここに至り漫才とコントの境界線はさらに曖昧となった。