博多大吉が手にしたもの

先日『ガキの使い』の「TKJ杯」と『情熱大陸爆笑問題田中編という強力な番組がしのぎを削った日曜23時台。
そのほぼ同じ時間に福岡ローカルでは『ナイトシャッフル』という番組内で、博多大吉をフィーチャーした「情熱大吉」が放送されていたという。
ネットの力で見ることができたそれは、博多大吉の底知れない魅力が伝わってくる上質なドキュメントだったので紹介したい。


番組では博多大吉が上梓した『年齢学序説』を糸口に、人間博多大吉の正体を探ろうとするものだった。
その企画意図を聞いた大吉は即座に「(正体なんて)わかるわけないでしょ」と大吉らしく微笑む。
「読みましたよ。いやぁ、アイツらしいな、と思いましたよ」と本の感想を問われた華丸は言う。「やっぱり人のこと書いてるわけですから。そういう書いた人に対して、絶対に傷つかせないように、回りくどいじゃないですか。なかなか核心をつかずに(笑)。どうせ『26歳』ってオチはわかっとるのに、そこに(なかなか)行かないあたりが、アイツらしいな」
大吉本人も裏付ける。

だから、相方もたぶん言ってると思いますけど、勝手に人の年齢調べて、人の功績調べて、自分の頭の中で組み立てて、文にして、お金もらうっていう、たいへんな他人のふんどしじゃないですか(笑)。
だから、絶対に失礼のないように。誰がどの角度から言われても、怒られないように、オブラートの重ね着がもの凄く大変なんですよね(笑)。

彼は『年齢学序説』を自分の妄想の到達点だと表現する。
そのサイン会では、ひとりひとりに丁寧に接するために予定の時間を大幅に超えてしまう。

サイン会、(時間が)長いですよ。好きな言葉を必ず(サインに)添えるので。「焼却炉の魔術師」か「捕虜」か「この世はすべて幻」か。あと、座右の銘を入れてください(と頼まれると)「来世もある」と(笑)。


大吉は以前こんなことを言ったことがあるという。

自分のことより他人のことを考えるんだ。

後輩に対する面倒見の良さはよく知られるところだ。
いや、若手だけじゃない。
彼を頼りにしているのはナインティナインの岡村をはじめ、同世代の芸人たちも同様だ。
「岡村くんが怖い、と将来。来年どうしよう……、再来年どうしようって言うんで、その悩みに、僕のってるんです。逆でしょ。普通、僕が相談せないかんのに」と大吉は笑う。


自分のことより他人のことを考える。そんな男がこの本で、初めて自分をさらけ出した。
それは、自らの26歳。
大吉は本の中でこれまで一切口にしなかった自分の26歳について描いている。
行き違いが重なり、番組を降板。

すっかり目標を失った僕は、家に閉じこもるようになった。
そんな中で始めたのが、「ネタを作る」という作業であった。
芸人に戻れる道が見えない以上、せめてものお詫びとして書き留めたネタは、全て相方にあげよう。(『年齢学序説』より)

一切の表舞台から姿を消した禁断の1年間。
その成り行きと、単身インドに渡るまでの心の揺れを、初めて公にしたのだ。

もう、いってしまえ、やったんですね。たぶん最初で最後だし、本なんか書けるの。

「でも、あれでも結構オブラートに(包んで)書いてましたからね。言うたって。もっとギクシャクした感じでしたから。あの当時はね」と華丸も振り返る。

26歳のクリスマスの夜、僕は相方の出演している特番を見ていた。
そこには、数人の福岡芸人を引き連れて、楽しそうに笑う相方の姿があった。
しかし僕には、全く笑えなかったのである。
もしも僕が隣にいれば、こんな展開にはならなかったのに……。
そんな自分が情けないやら、歯がゆいやら、寂しいやらで、いつの間にか僕は泣いていた。
このまま芸人を辞めてしまったら、僕は死ぬまで後悔する。
あと一回だけ、アイツの横に立とう。(『年齢学序説』より)


その後、大吉は単身インドを旅し、帰国後、復帰を果たした。
そして博多華丸・大吉は2005年に東京進出。
当初は華丸のモノマネだけが目立ち、大吉は華丸の引き立て役のような立ち位置だったが、2008年頃から『アメトーーク』などに出演し、序々に注目をあびるようになった。
大吉を「普通じゃないでしょ。僕の方が普通ですよ。絶対」と言う華丸。「変わったんじゃないですか。東京行って。前向きになった。アレでも」
大吉も同様に自己分析する。

うーん、やっぱ変わったと思いますねえ。
たぶん東京行って「引け目」が無くなったんですよ。
舞台に出されて、東京の人おるし、大阪の人おるし、まずはこの人たちの邪魔せんようにっていうことをずっと思ってて福岡のときは。それが無くなったですねえ。

華丸は現在の大吉の活躍について「いま、どっちかっていうとアイツが目立ってくれるんですごいいい感じですね。僕はすごく楽しいですもん。アイツがどんどん前に出てくれるから。なんやったらお前はアレだけか、ってことになりかねないですよね、僕も。それはそれで僕もがんばればいいし」と嬉しそうに語る。「元々は自信家なんですよ、アイツは。本当は。でもよくわかんないんですよ、アイツは。隠したりするから(笑)」

「自信がないか?」って言われたら、
「自信がない」とは言わないですね、今はもう。

博多大吉は控えめに、しかし力強く宣言した。


参考:博多大吉が見上げる世界

年齢学序説
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