ピース又吉の邂逅の書

10月8日から始まったテレビ東京の『ざっくりハイボール』(千原ジュニア司会)。
第2回(10月15日)は「勝手に感謝状」という企画が放送された。
これは何気ない日常の中で出演者たちの心に残った人を勝手に表彰してしまうコーナー。
そこで披露されたピース又吉直樹のエピソードはとても胸を打つものだった。
又吉は「お笑いと本とサッカーでだいたい僕は構成されている」と自称するほど「本好き」で知られている。

僕は本が大好きなんですけど、本屋に行ったら装丁がめちゃめちゃ渋いかっこいい本を見つけたんですよ。
うわ、これなかなか無い装丁やなって思って。
昔日の客タイトルが『昔日の客』っていう。
昔、古本屋の店主が書いたエッセイで絶版になってたやつを復刊された本。
それを面白そうやなと思って買って読んだら、めちゃめちゃいい本で、その古本屋に来たお客さんとか小説家との交流とかを書いてるエッセイなんですけど、出てくる人がみんな本が好きで、本好きからしたらたまらん内容ですごい読んでて感動したんですよ。
こんないい本を復刊させた出版社どこやろうって見たら、「夏葉社」って書いてあったんですよ
あんまり聞いたことない出版社だったんで知り合いの本関係の仕事してる人に「どんな会社なんですか?」って聞いたら「吉祥寺で一人でやってる出版社や」って。
その数日後にラジオで最近読んだお勧めの本を紹介するコーナーがあって、その話をしたんですよ。
『昔日の客』っていうエッセイが凄い面白くて、本に対する愛情が伝わるし、これを復刊させた夏葉社の人も絶対本が好きやっていうのが伝わってきて感動しましたっていう話をしたんですよ。

その話をしたラジオというのは小島慶子がパーソナリティを務めるTBSラジオ『キラ☆キラ』のコラムコーナー「コラ☆コラ」(6月21日放送)。 
又吉がお勧めする3冊を紹介するというもので、その2冊目で『昔日の客』を紹介していた。

小島: 2冊目はこれまた渋い装丁なんですけど、綺麗な装丁ですねぇ。布の装丁で筆書きの字でタイトルと、後ろに絵もはめこまれてあって。これは何ですか?
又吉: 関口良雄さんの『昔日の客』っていう。あの、東京の大森で山王書房っていう古本屋をやってた店主さんなんですよね。三島由紀夫とか有名な作家がよく行ってたような古本屋で、結構その世界では有名やったみたいなんですけど、その(店主の)人が書いてたものが一冊の本になったっていう本なんですけど。
小島: もう亡くなられた方なんですか?
又吉: もう亡くなられたんですけど、亡くなった後に形になって出版されたものらしいんですけど、それの復刻っていうか何年か前に出ました。去年かな?
小島: 全然古本に詳しくない人が読んでも面白いんですか?
又吉: これは面白いですね。エッセイとしても全然読めるというか。たとえば、この人がどっか行った時に人と間違われるんですけど伊藤整さんっていう作家さんと間違われるんですよ。でも伊藤さんになりきってやりすごして、またその古本屋に行った時に間違えられてその人のまま、気まずいから本を買うんですけど「今度あなたの家の近くに行くんで持って行きます」って言われて。それは大変じゃないですか。伊藤さんのところ持っていかれたら、自分が買う本でうから。それを「いやいや、今日すぐ使うんで」って言って引き取った、みたいな。そういう本を一旦置いといても楽しめるような話もあったり。
小島: エッセイ集ですね。
又吉: エッセイなんですけど何よりむちゃくちゃ本が好きなのが伝わってくる文章なんですよ。古本、本、作家を愛してるっていうか。
小島: 文章は結構平易ですよね。
又吉: そうですね。凄い読みやすいですし。最後、「あとがき」まで読んだら、泣いてまうような。本に対する愛情が凄いんですよ。
小島: あ、これはあれか。ご家族がお父さんのエッセイを本にして出したから「あとがき」は息子さんが書いてるんですね。
又吉: そうなんですよ。
小島: あ、お父さんへの思いを書いてる。これちょっと泣いちゃいそうですねえ……。装丁も綺麗な若草色の古い本のような布張りで、関口さんの直筆でしょうかね? タイトルは。これはなんて読む会社なんですか?
又吉: 夏葉社(なつはしゃ)。絶対本好きな人が作った本ですよね。
小島: 装丁が非常に美しくてね。背表紙の古書店が版画になったものが、ちっちゃくはめ込んだものがね。
又吉: 最初は作品とかから入っていくんですけど、だんだん古本屋が好きになったり装丁が好きになったり、本自体が好きになったりとか、僕もそういう順番に好きになっていって、それが凄い分かると言うか、この人も本の全部が好きになってしまったんだなっていうのが伝わる本ですね。

そして、エピソードはこれが放送された2週間後くらいの話に続いていく。

その2週間後くらいに、下北沢の古本屋に、たまたま2、3度行ったことあったんですけど、そこに入って。
上林暁傑作小説集『星を撒いた街』またかっこいい装丁の本を見つけて、それが上林暁っていう小説家の短篇集(『星を撒いた街』)やったんですよ。
見たら「夏葉社」って書いてあって
また夏葉社が新しい本を出してると思って、それをレジに持っていったんですよ。
そしたら今まで喋ったことなかったんですけど、下北の古本屋の店長さんが「又吉さんですよね?」「あ、そうです」って言ったら「夏葉社の者から、この本は又吉さんが来たらお代はいらないって言われてるんで」って。
「ええー」ってなって。僕、行きつけ(の店)ともどこでも言ってないし、「本当ですか?」ってその本だけは頂いて。
本当に『昔日の客』の作品の世界観が現実に起こったみたいな。

そして夏葉社に感謝状を贈呈。
夏葉社の島田潤一郎は言う。

たまたまお世話になってる下北沢の古書店で、たまたま又吉さんの話になって、僕は又吉さんに感謝の気持ちを表したかったから、お店に来るようなことがあったら「僕からです」ってことで本を渡してくれないかって。その話はその古書店一店だけにしかしてなかったですよ


この又吉の話を聞いた芸人たちはみんな一斉に驚嘆の声を上げる。
そしてフットボールアワーの後藤。

インテリジェンス溢れてビチャビチャになってるやん!


ちなみにこのエピソードは『acteur』最新号の又吉自身の連載エッセイでも詳しく、その繊細な文体で書かれている。
彼の文章で読むとまた違った味わいと感慨を得ることが出来ると思うので是非ご一読を。


(追記)
夏葉社さんのHPの日記(10月17日分)でこのエピソードについて書かれています。
下北沢の古書店「古書ビビビ」でのやりとりや当時の心境などが書かれていてますます味わい深くこのエピソードを堪能できるはずです。
こちら→ http://natsuhasha.com/
ちなみにちなみに、夏葉社さんのTwitterで、この奇跡的な出会いがもう少し以前から始まっていることが分かります。それは、又吉がラジオで『昔日の客』の話をする約半年前のツイート。
「又吉の本棚に昔日の客があったような気がする」というツイートに夏葉社さんがリツイート。

昨日のM1、間違いなく、『昔日の客』がありました! 又吉さんのファンになってしまいましたよー。
2010年12月27日 7:31