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ビートたけしとフライデー事件(1)


■発端


1986年12月9日未明、ビートたけし(本名北野武、当時39歳)とたけし軍団ら総勢12名は、講談社「フライデー」編集部に乱入、乱闘の末、編集部員ら10名に暴行を加え逮捕された。
いわゆる「フライデー事件」である。
この「フライデー事件」とは一体何だったのか?


話は事件が起こる2年前に遡る。
「俺も憶えてない子供時代の写真やエピソードを拾ってくる」とビートたけしはその男の仕事振りを呆れつつも感心し一目を置く存在になっていた。
彼の名前は石垣利八郎(事件当時35歳)。
雑誌「ラジオマガジン」でたけしの少年時代の特集記事を書いたのが二人の出会いだった。
強引だが先生や昔の友達を片っ端からあたる大変な取材力だった。
これがきっかけとなり石垣は86年正月過ぎまで小学館の若者雑誌「GORO」で、たけしの厚意を得て何度かビートたけしたけし軍団を扱っており、雑誌業界では当時「たけしに喰いこんでいる」数少ない記者であった。
たけしはこの頃、多くのレギュラー番組を抱える絶頂期で、83年には「たけし軍団」を結成*1。事件当時のメンバーは10名にのぼり、さらにその下に「たけし軍団セピア」が5人いた。


さらに数年遡る。
81年、写真週刊誌「フライデー」が創刊される。その3年前に創刊し、田中角栄法廷写真、中川一郎立ちション写真などで売り上げを伸ばしていた「フォーカス」が独占していた市場を狙ったものだった。「フライデー」はより過激な取材で、創刊半年後には100万部を突破し、程なく「フォーカス」を抜き、この分野のトップに立つ。
このヒットを受け、85、86年には相次いで「エンマ」「タッチ」「フラッシュ」が創刊され*2写真週刊誌は飽和状態になり競争は激化していった。
そして、当初取材対象は主に政治家などの社会的強者だったが、三浦疑惑や岡田有希子自殺写真などを境に3FET報道対象の中心が芸能人や一般人など比較的弱い存在へと変化していく。
こうした中、人気絶頂のたけしの記事を喉から手が出るほど欲しかった「フライデー」は、86年夏ごろ、風呂中編集次長により、「たけしに喰いこんでる」石垣利八郎を引き抜き、編集部員増子の下に契約記者として配属した。
しかし、この石垣の「フライデー」移籍はたけしはもちろん、当時たけしが所属していた太田プロにも知らされてはいなかった。つまり、依然として「GORO」の記者として接していたのである。このことがやがて事件の決定的役割を果たすことになってしまう。
この移籍以前の1年余りは「フライデー」のたけしに関する記事はなかったが、石垣移籍後は8月から4ヶ月間だけで6回もたけしの記事が載ることになる。
その記事は以下の通り。

○8月8日号「『こいつはスケベでソープ入りびたりだからね』怪人井出らっきょ結婚してたけし『毒辞』」
○8月22,29日合併号「7歳の顔、25歳の顔 みーんなビートたけし『貧乏してたガキの頃』は野球大好き優等生」
○9月5日号「ビートたけしの別宅へ通う『美女』あり 19歳の年齢差超え、5年間続いたフシギ関係」
○9月19日号「チョーさんを一塁フライに打ち取ったーッ 7−4で名球界に勝った『たけし軍団』の秘技」
○11月7日号「亭主元気で留守がいい ジャンジャン 『たけし離婚ナシ』証明する『面接試験』」
○11月21日号「母校に『ただいまッ』して気が高ぶった? たけし狂乱 ステージでダウン」

「イヤー、ここんとこちょっとシャレになんなくてさ。あいつらおかまいなしなんだよな」とたけしはこれらの記事に対し怒りをぶつけていた。特に愛人や家族を扱った記事に対して強い敵意を抱いており、11月7日号の記事で取り上げられた娘の幼稚園試験は失敗したことでその怒りは決定的になっていた。
「取材だってちゃんと来たのなら、こっちだって、きちんとした対処の仕方もあったんだよな。それが幼稚園を出るなりいきなり女の子が現れたと思ったら『わー、たけしだ、たけしさーん』なんて来てさ。当然、おれのファンかなんかだと思うじゃないの。そしたら、いきなり『カメラ!カメラ!カメラ早く』ってさ。それもおれとカミさんだけならまだしも、ガキまでもだろ。さすがのオレもあんときには、ムッときたよな」


こうしてたけしの「フライデー」に対する不信感は爆発寸前に膨らんでいたのだった。
                                  (つづく)

*1:「アイドルパンチ」という番組の中で「たけしアーミー」というお揃いのトレーナーを着ていたことから、ディレクターを務めていた森昌行(現「オフィス北野」社長)により命名される。今では信じられないが当時は松尾伴内がたけしに一番、目をかけられ一頭地抜きん出た存在だった。

*2:事件後には俗に『3FET』と呼ばれる。