読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

なだぎ武を変えた旅


「自分の過去をテレビで喋ることはほとんどない」というなだぎ武
4月1日に放送された「草野☆キッド」では「テレビで話すことは初」という話を「丸裸になるつもり」で、自分の過去を語っていた。


学生時代は、クラスの人気者とは、正反対の人間だったという彼は「あまり友達を作らず、自分が好きなものがあると、もうそこだけに依存してしまうようなそういう子どもだった」。
自宅ではいわゆる「引きこもり」状態だった。

僕が引きこもってずっと好きなテレビを見てたりとか、好きな音楽を聴いてたり、漫画を読んでたりしてたんですけど、それをしているうちにホントに人と喋れなくなって。


そういう時期は、親から声を掛けられることすら億劫になってしまうんですよ。
要するに自分の部屋の扉の前にお食事を置いていただいて、それを親がいなくなると、さっと取って食べて、終わったらそれをさっと出しておくという。
僕がそういう生活をしていたら、親も空気を読んでホントに近づかなくなったんですよね。
そのうちに親が出したご飯すら食べなくなったんです。

親を遠ざけるために扉に付けた鉄格子のような柵をいちいちネジをひとつひとつ外し、コンビニに食事を買いに行き、また柵を戻すという生活を送っていた。
学校に行けば、「いじめ的なことにあう」ように。

それで、もう人と絡むのはよそうと(決心し)、それでどんどんどんどん人から離れていったんですよ。
それで、学校行くといいながら、学校に行かず映画を見に行ってたりっていう生活でした。
ホントに人が私の前から遠ざかって行ったんです。
そして誰もいなくなった」っていう。


結局高校を中退する。

今ですと、「引きこもり」っていう文化があるので、そういう感じになると、あ、自分は引きこもりだなって解るじゃないですか、自分で。
でも、僕らの時代はそういう文化がなかったので、今自分はどういう事態に陥っているんだろう、自分の周りから人がいなくなるこの事態は一体どういうことなんだろう、っていうことを悩むようになりまして。それで、このままではいけないな、だけど、どうしていいか分からないな、ってところで悩んでたんです。

そんな彼が変わるきっかけを与えてくれたのは、やはり彼が愛する映画だった。

ふと映画を見まして、寅さん(「男はつらいよ」)なんですけど。寅さんを見た時に、フーテンの寅っていうのは凄い男だな、と。自分が好きな時に家を出て行って、プラプラプラプラ旅をして、お金がなくなったら家に帰って来て妹を困らせて……。
自分にないものをすべて持っていたんですよね。
それを見た時にああ、寅さんみたいな人生を自分がおくれれば楽しいんじゃないかと。フーテンの寅さんに憧れを抱きまして。こういう風にのびのびと生きてみたいなと思いまして。

しかし、だからといって寅さんのようにまったく知らない土地に行って人と交流する勇気はまだ、なだぎにはなかった。

だけど、この殻から抜け出さないといけないと思って、ひとり旅をしようと決意したんです。
初めて見知らぬところへ行くのは怖かったんで、自分の田舎が鹿児島だったので、鹿児島に行こうと。

そこで、久しぶりに自分の祖母や親戚たちと語らう機会を得る。

今まで人としゃべらなかった自分が人と話せたっていうのがちょっと一安心して帰ってきた時に何か大きな仕事をやり遂げたみたいな感じで気持ち良かったんですよ。

普通の人でいえば、ただ里帰りをしただけのことが、なだぎにとっては自分が他人とまともにしゃべれたという事実にホッとし喜びを感じた重大な出来事だった。
そしてこれを続けないといけないと思い、毎年夏にひとり旅をするようになった。


映画が好きななだぎは、映画の舞台になっているところに行きたいな、と思い、ある年、広島の尾道*1を訪れる。
ここで、なだぎは思いがけない事態に遭遇する。
なだぎは、軽い食中毒になってしまい、腹痛で倒れてしまったのだ。
あても何も決めていないひとり旅だったので、どこに頼っていいのか分からない。

でも、動けないで倒れてたら、ある一人の女性の方が声をかけてくれたんですよ。
「大丈夫かあんた」と。

事情を話すと「分かった、じゃあ、あたしがなんとかしてあげる」と、彼女は救急車を呼んでくれ、病院にも一緒についてきてくれた。
点滴をうち、病状もある程度回復し、もう帰っても大丈夫となる。すると、行く当てのないなだぎを見かね「じゃあ、あたしのところに来なさい」と言われ、なだぎは彼女に付いていった。

連れて行ってもらったところが、旅館だったんです。
旅館の女将さんだったんですよ。
「ここで休んでいきな、1日ゆっくりしていったらいいわ」
とご飯も頂きまして、休ませてもらったんですよ。

薬も飲んでいたこともあってあくる日にはすっかり病状も回復したなだぎ。

でも、さすがの人と絡まない僕でもこのままでは帰れない、と思いまして
「お世話になりました。でも、僕、このまま帰れないんで、今日1日この旅館で働かせてください」
ということで働かせてもらったんですよ。
で、「御苦労さん」ってことで、その日1日泊まらせていただいて、次の日に帰ったんですけど、人としゃべることの大事さといいますか、人の話を聞くことが、(それまで)あんまり好きではなかったんですね、でも、人の話を聞いて、自分がまた前をむいていけるっていうのをそこで学びましたね。


この旅と出会いを通じて、人の優しさを知り、人生観が変わったというなだぎは、自分の将来を真剣に考え始め、ようやく芸人への第一歩を踏み出していくことになったのだ。

*1:言うまでもなく大林宣彦監督作品「転校生」などの舞台