関根勤の妄想力

先日発売された「お笑いパーフェクトBOOK」に掲載されている伊集院光関根勤の対談では、関根が以前から繰り返し語っている「妄想」の素晴らしさを改めて語っていた。
「妄想はお金のかからない最高の娯楽」と言ったのはタモリであるが、この対談では、関根勤が、妄想を最高の娯楽にする極意を明かしている。


ポイントは3つある。

妄想は常にポジティブで

伊集院光は、自分の悪い癖として「妄想し始めると怖いほうへと最終的に行っちゃう」という。「ネガティブな方向にふくらむ」のだと。
しかし、関根は全く違う。
例えば、現実で「妻が僕のことを褒めない」と嘆く。しかし、関根はそこから、「どうして僕のことを褒めないのかな」と考えだし、逆に「もし付き合ってる頃から女房に褒められ続けたら」と妄想を展開していく。

男って一番身近な人、妻とか恋人に褒められたいものでね。褒められたら僕は、東洋進出していたはず。でもさすがに世界まではムリでしょう。そこまで自分に甘くない!
            (略)
下手すると俺、ジョン・ウー監督のあの大作『レッドクリフ』に出てたんですよ。キツイですよ、『レッドクリフ』は出たらやっぱり。
アジアに進出した場合、ジャッキー・チェンやチョウ・ヨンファとも共演するじゃないですか。そのプレッシャーに耐えられるのか……答えは耐えられないんですよ。だから女房が僕を褒めなかったことを、ありがたいと思わなきゃいけない。女房は正解だったんですよ。そう思うとね、褒められないこともイヤじゃなくなってくる。

そういうふうに前向きに妄想していけば「楽しく生きていけるんじゃない」か、と関根は言う。
「スクール革命」にゲスト出演し「妄想学」を講義した際は「妄想とは万能薬である」と称している。

設定はシビアに

伊集院は前述の妄想を聞きながら、関根の「本当にスゴさを感じる点」として、「さすがに世界まではムリ」と言うところ、だと言う。

そこ、別に世界まで行ってもいいでしょ。妄想は自由なのに、でも「待てよ、世界はねえな」って自らストップをかけている。

関根は、先日ゲスト出演した「さんまのまんま」でも、ラジオ「コサキン」リスナーにはお馴染みの「脳内浮気」を披露している。

昔、井川遥ちゃんがマイブームだったことがあるんですけど、頭の中で南の島とか行きますよ。水上コテージに泊まってね、(船の床)下にこうガラスがあって「わぁ、魚さんと一緒だね!」なんてね。で、口づけと来ますよ。熱い唇でね。
             (略)
井川遥は恋愛期間は)長かったですねぇ。でも優香ちゃんも続いてますね。優香ちゃんも10年ぐらい続いてますね。あとは、麻木久仁子さんとかね、最近。麻木久仁子さんはどうしても必要な方なんですよ。というのはね、優香ちゃんとかはもう、27歳違うんですよ。で、ガッキーも好きだったんです、僕ね。今でも好きですけど。ガッキーが19歳の時に妄想してると、ガッキーとデートしてると疲れるんですよ。年齢差が凄いでしょ!

これを聞いて明石家さんまは「クワー(笑)」と身もだえしつつ「頭の中やから疲れないような女には仕上げられんのか?」とツッコむ。

一応、そこはやっぱり設定はシビアな感じにしたいんです。
で、そこは話とか合わせなきゃなんないから疲れるんですよ。そうするとね、次の日、麻木さんだと、10歳違いなんですよ、そうすると、近い感じがして、楽なんですよ。だから麻木さんはどうしても必要なんです。妄想の中で。
それでも10歳違いますからね、贅沢ですよ。

関根がこだわるのはギリギリのリアリティである。妄想だからといって、何でもありにしてしまうと面白くない。だから、ディテールを疎かにしない。*1

他人を傷つけない

関根はその妄想力の凄さを見込まれ、その妄想を披露する機会が多い。例えば「笑っていいとも!」のコーナーで、素人が登場してきた際、その人の特徴を捉え、何かに喩える。
自身のDVD「関根勤の妄想力 北へ」でも同様の企画をしており、その時の心境を語っている。

僕が一般の人を相手にした妄想で心掛けているのは“喩え”に気をつけていること。言葉の暴力もずーっとキズとして残るじゃないですか。だからそこをね、ギリギリのところで、その人が傷つかない方法をとろうと。例えば引きこもりっぽい人が相手だったら、「私、詩集を3冊作りました」って紹介してみる。内向的だということを示唆しつつも、詩が書けるっていう才能を先に出して、表現を明るくするんです。プラスの表現を押し出し、その人のマイナス部分も想像してもらう。足が太くて、がっちりした、ちょっとだけ山口百恵さんに似た女性なら、「百恵さんが陸上競技を3年やったみたいですね」って言う。これだとそんなに傷つかないと思うんですよ。

他人を傷つけずお互いに気持ち良くなる。それが結果、自分への妄想もすべてをプラス思考に変える訓練にもなるのだろう。


伊集院は関根の凄さをこう語る。

前に関根さんに関する本を読んだときに、それは「関根さんがどれだけのピンチを乗り越えて今の地位にいるか」っていう評伝だったんですが、なのに関根さんの感想が、「ビックリしたよ、これ読んで、俺、ピンチの連続だったんだって分かったよ」って(笑)。

その持前のポジティブな妄想力によってピンチをピンチと思わない精神力、それこそが、関根勤の凄さではないだろうか。


ところで、今回のエントリで引用した関根&伊集院の対談の掲載されている「お笑いパーフェクトBOOK」。
この本は、100本以上のお笑いDVDのデータ本。それだけでも、個人的には“買い”な本だが、この本はそれだけではない。
巻頭&表紙こそ、はんにゃを起用しているものの、そのすぐ後に続くのが、この関根&伊集院対談という渋さ。さらに高田純次バナナマン劇団ひとり千原ジュニアバカリズムバッファロー吾郎矢野・兵動東京03キングオブコメディサンドウィッチマンオリエンタルラジオ、ライセンス、NON STYLE、しずる、ジャルジャルななめ45°マキタスポーツなど実力派芸人が揃ったインタビュー。また、大根仁、オークラといった裏方側へのインタビューも。
そして、特集記事やコラムも多数掲載されており、まさに充実の内容。お薦め!

*1:ちなみに、その後さらに、さんまに「海外(の女性)には行かないの?」と訊ねられると、関根は「すぐゲラウェエッ!って言われそう」「それ言われたら傷つくから」と言う。しかし、女子棒高跳び世界記録保持者イシンバエワとは妄想したと語る。でも自分とイシンバエワとでは、自分にだけメリットがあって、彼女にはメリットがない。だから自分は、妄想の中では、棒作りの職人になっていると続く。