漫才師にとってのセンターマイク

NHK『ディープピープル』3回目のテーマは「漫才師」。
浅草キッド水道橋博士ますだおかだ増田英彦中川家剛という異色の組み合わせで、漫才をテーマに鼎談していた。
そこでは、それぞれのネタ作りの方法、漫才が惰性になってしまう時、ネタが飛んだ時の対処法など様々な話題が飛び交ったが、中でも興味深かったのは、センターマイクに対するそれぞれのこだわり、考え方の相違。
センターマイクとは舞台の中央に予め準備された一本のマイク。
漫才師は舞台袖から呼び込まれるとそこに向かって歩いてきて、その高さをサッサっと調整して、お決まりのフレーズやらで挨拶して漫才を始める。

増田: このセンターマイク。
博士: はいはい、漫才師の象徴じゃないですか。
増田: これはやっぱりいりますよね?
博士: いるいる! え、何で?
増田: いや、たまに東京のネタ番組とかで明らかに漫才やのにセンターマイクを置かない番組とかあったりするんですよね。ピンマイクで。まあ正直、テレビで漫才やるときってピンマイクついてるから、コレ(センターマイク)いらんといえばいらんし、置いてるだけで線つながってないことも多いじゃないですか。
博士: ダミーで置いてる時も多いね。
剛 : 僕は、正直、いらないんですよね。
増田&博士: ええーー!
増田: いるよぉっ!
剛 : 邪魔なんですよね
増田: 何でえな! これがあるからココがセンターって分かるやんか。
剛 : なんか、そこにおれって言われてるみたいで嫌なんですよ。なんて言うんですかね、邪魔……。
博士: じゃあ、コントでいいじゃん。
増田: もしくは立ち話? コレがあったら漫才、これがなかったら立ち話みたいな感じに映るかも分かんないですよね?
剛 : あー、もう(漫才に)コレ込みですか? 見てる方も気持ち悪いんですかね?
増田: コレ、別名「漫才マイク」って言いますやん。「センターマイク」って言うたり、「サンパチマイク」って言うたり、「漫才マイク」って言うたり。
博士: 俺はね、コレがセンターにあって、コレを中心にボケとツッコミが別れて、客席に向かってこう波状に笑いっていうのを、ココから発信していくっていうイメージ。前はなくってもいいやって思った時期もあったけど、やっぱ漫才っていう形をならしめてるのは、このマイクかなって思うんだけど。
増田: そうですね。僕も漫才師とか見てカッコいいって思うのは、小道具とか使わずにコレだけで勝負してる感が凄いカッコよく思えたんですよね。だから僕、結構こだわりありますねえ。
剛 : 僕は全然こだわらないですねえ(笑)。

一貫してこだわらない剛に対し、様式美とただの立ち話との違いにこだわる増田。そして、マイクの高さを直す仕草も「漫才師の所作」だと主張する博士。
一旦、話はM-1と普通の漫才の違い、理想の漫才の形など、これまた興味深い話を挟み、漫才師としての漫才への愛憎について率直に語られ始める。

増田: 漫才が好きで漫才師になりましたけど……、なんか漫才が好きやのに漫才番組とか見るとき自分とか出てなくても笑ってないんですよね。おもろいネタが出てきた時に笑えないんですよね。わっ、やられたっていう感情が先に行っちゃう。
剛 : 好きでやりはじめたんですけどね、、、嫌いですもんね……。
博士: (笑)。 あの、(舞台)袖で後悔してる時無い? (センター)マイクを横で見てて、こっから出て行くのかぁ、こんな仕事就かなきゃ良かったぁ、、、って。
一同: (笑)。
増田: いや、長生きせえへんやろうなって思いますよね。心臓の音聞いたときに。
博士: ものすごい楽しいことしにいくはずなのに、あそこでさ、喉カラカラになってさ。
増田: でも、漫才中、楽しいですよね! しいて言えば。
剛 : 舞台出てる時が、なんか逃げてる時みたいな感じがあるんですよね。
増田: そう! このマイクの前が一番楽っていうか。
博士: それはホントにある。漫才で、自分でネタを考えてる時の方が苦しい。たけし軍団やってたから、最初の徒弟制度が苦しくてね。ただね、舞台のマイクの前だけは、横から兄弟子が来て殴ったりなんかないじゃない。絶対に邪魔されないじゃん、この時間は。師匠の悪口言おうが、兄弟子の悪口言おうが、何言ったて、ウケれば良いわけじゃん。この開放感! 
増田: だから漫才師にとっては、自由な場所ってココだけなんですよね、たぶん。……ってことは、このマイクいるんちゃうん?
剛 : また、マイクに戻ってもうた……(笑)。いるんかな、、、やっぱり……。 

「いるんかな、、、やっぱり」なんてつぶやいているものの、きっとそんなことは全然思ってない剛。
たった一本のマイクだけの前で、その舞台にこだわりながら観客を笑わすことに賭ける漫才師はとてつもなく漫才師然としてカッコいい。
しかし一方で、自分たちがしゃべれば、それはもう漫才だと、そのマイクにすらこだわらない自然体の漫才師もまたたまらなくカッコいい。