タモリと猫と犬

既にお知らせしたとおり、3月26日に発売する『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』には『団地ともお』などの小田扉先生にイラストを描いていただきました!
担当編集の堅田さん*1の人脈を頼って畏れ多くも提案してみたら、ありがたすぎることにお引き受けいただいたのです! 自分の本へ大好きな小田扉さんにイラストを描いてもらうなんてホントに嬉しいです。
で、あがってきたイラストを見て爆笑しました。

なんで犬!? なんで犬小屋!?(笑)と。
タモリといえば一般的に知られているのは猫。
その意味不明っぷりに笑うとともに、その無意味さが最高にタモリっぽいと思い、これを表紙に使うことを即決しました。
ちなみに小田扉先生のイラストはこの表紙だけでなく、数箇所にわたって使わせてもらって遊んでいますので、是非、本書を手にとったらじっくり探してみてください!


ところで、タモリとペットでいえば前述のとおり猫が思い浮かびます。
徹子の部屋』などでは黒柳徹子タモリ宅に訪れた際の「パトラ」の様子がよく話題になります。
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普段、めったに人になつかないパトラが黒柳徹子にはひと目で心を許した、だとか、マツコが来ると、タモリも見たことがない表情で威嚇し逃げていくとか。
ちなみに奥さんの春子さんにはもちろんなついていますが、タモリにもあまりなついていないそうです。


そんなタモリの猫事情についてよく知ることができる本があります。
それが『私の猫ものがたり』です。

私の猫ものがたり (集英社文庫)
中村 紘子
集英社
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この本は、水森亜土檀ふみ所ジョージ来生たかお南伸坊赤塚不二夫伊藤比呂美小沢昭一大地真央、岸本加世子……、そしてタモリといった36人の各界の著名人が、「猫との交際術と猫へのラブレター」を綴っています。
いずれも各人が飼っている猫の写真付き! たとえば有名な赤塚不二夫家の菊千代もその可愛らしい姿を見せています。


で、タモリはこの本で「ちまたでは猫ブームらしいが、猫を飼う楽しみのひとつである“ノラの餌付け”が残念ながら忘れられているようだ」で始まる『セイビョウの餌付けは家庭を破壊するか』という文章を寄せています。*2
タモリは成猫の猫の餌付けについて「忍耐、努力、理解、そして暇を必要とする」「やりがいのあるおもしろさに満ちている」と言うのです。

暇なころの私は、博多で二回、友達のアパートに転がり込んでいた学生時代に二回、結婚してから一回、餌付けに挑戦し、二勝二敗一引き分け(いずれもKO勝ちで、うち一回は薬物入りオレンジ*3使用)の記録を持つ。

そして、餌付けの方法をタモリは丁寧に解説*4。 
タモリは自ら「日本成猫餌付け協会会長」を自称した上で、

『セイビョウの餌付けは家庭を破壊する』
危険性があることを伝えておきたい。

と綴っています。もちろん「セイビョウ」は「成猫」と「性病」をかけているわけですが*5

皆さん、セイビョウを怖がってはいけない。セイビョウと一緒に住もうという大きな心を持ちなさい。そうすればもはや、セイビョウは家庭破壊の原因ではなく、夫婦の仲をとりもつ、家庭円満の秘訣となるのだ。

f:id:LittleBoy:20140320094328j:plain:left:h300この頃、餌付けが成功して飼い猫になった、ミケのメスの「ミー」(当時5歳くらい)、アビシニアンのオスの「リッチー」(当時2歳くらい)がいて、「ミー」はこの頃、3度目の出産をした(父親はリッチーではない)とあります。この子猫たちの名前の記載はありませんが、その4匹の子猫の写真も本書に添えられています。
ちなみに「俺が餌付けした成猫であるにもかかわらず、どういうわけか、もはや俺にはなつかず、女房になついているのだよ、うちの猫は」とタモリは愚痴ったりもしています。


そして「余談」として「犬」が登場。

我が家には横山弥助という犬もいるのだが、こいつは放ったらかしになっていて、ホント、哀れそのもの。
愛情に飢えているので、どんな人にもなつくし、人が近づくと小便たらして喜ぶ。頭なんかなでようものなら、歓喜のあまり、四肢が膠着状態に陥る。
月夜の晩には決まって、チャリ~ン、ズズーッという音がするので怖いもの見たさで調べれば、ヤツが肉もちぎれんばかりに首輪と鎖を引っぱり、犬小屋を引きずっていた。犬小屋がズズーッ、鎖がチャリ~ン。そして月を見てほえる。ウォ~ン、ウォ~ン。


さらに1990年に『河童が覗いたトイレまんだら』で自宅のトイレの取材を受けた際にも、タモリのペット事情が触れられています。

河童が覗いたトイレまんだら (文春文庫)
妹尾 河童
文藝春秋
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当時飼っていた猫は、「キムヨンスン」と「ペペ」、そして「ミー」。
いずれも「迷い込んで居ついた猫」と説明されています。
そして、愛犬「横山弥助」についてはこう述懐するのです。

「横山弥助って犬もいたんですが、車に飛び込み自殺してしまいまして……」


そんなエピソードを知ると、この小田扉先生が描いてくれた表紙イラストもさらに味わい深くなっていきます。

この犬はもしかしたら横山弥助なのかもしれません。…んなこたぁない。

*1:参照: http://littleboy.hatenablog.com/entry/2014/03/10/004937

*2:ちなみにタモリはいくつかの本でこのような短編の文章を寄せていることがありますが、いずれも工夫を凝らした名文です。最近の本でいえば『タモリのTOKYO坂道美学入門』(これは自著なので寄稿とは違うけど)の「はじめに」にあたる文章の美しさは絶品! たぶんやりたがらないだろうけど是非、タモリさんには自伝的エッセイを書いて欲しい。

*3:当時のプロボクシングで起きた「毒入りオレンジ事件」を揶揄したもの

*4:もちろん現在は野良猫の餌付けについては賛否はあると思いますが、当時(1983年刊行)はそういった議論はあまりなかったのではないでしょうか

*5:そんな解説は野暮ですが部分引用のため念のため