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「未来はアドリブで変えられる」劇場版『ゴッドタン キス我慢選手権』第2弾、いよいよ!

いよいよ『ゴッドタン』の劇場版第2弾となる『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』が今週末10月17日(金)より公開されます!
今回ももちろん主演は“アドリブの天才”劇団ひとり。楽しみです!
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それに併せ、映画の監督であり、番組プロデューサーである“実現の神”こと佐久間宣行による待望の新書『できないことはやりません ~テレ東的開き直り仕事術~』が発売されるなど様々な企画*1が展開されています。

そして本日12日深夜には前作『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』がテレビ東京で地上波初放送されます!
というわけで、DVD&ブルーレイ化された際、封入されたブックレットに書かせていただいた、4ページにわたるちょっと長め*2のコラムを転載します。

アドリブで未来を変えた『ゴッドタン』と「キス我慢選手権」---深夜2時の秘密基地

「笑えるか? そんな元気はないか? 笑おうぜ!」

2011年3月下旬に予定されていた『ゴッドタン』の「マジ歌ライブ」。しかし、3月11日に発生した東日本大震災の影響で中止を余儀なくされた。それでもプロデューサーの佐久間は意地でも「延期」にこだわった。そしてわずか2週間後の4月7日。震災から1ヶ月足らずで、エンターテイメントが軒並み「自粛」を迫られる中で強行し、オープニング映像でそんなテロップを流しメッセージを伝えた。
不謹慎だと誹られても、出演者にも、作り手にも、そして何より視聴者・観客である僕らにも、笑い合う「秘密基地」のような場所が必要だった。それが『ゴッドタン』だったのだ。


深夜のバラエティ番組の多くは若者をターゲットにして作られている。飽きっぽい彼らをつなぎとめるため様々な工夫や挑戦をしていく。それが成功するのは一握り。失敗すれば、すぐに打ち切られ、成功しても「ゴールデン昇格」という名の“赤紙”が届き、番組の性格の変更を余儀なくされる。いずれにしても現在のテレビの状況では深夜番組が長く続くことは奇跡に近い。
かつて『ゴッドタン』もそんな短命な深夜バラエティ番組のひとつだった。2005年2月11日に放送されたパイロット版ともいえる特番を経て、同年10月7日よりレギュラー化した『ゴッドタン』は、わずか1クール、同年12月23日の放送を最後に打ち切られたのだ。
もともと『ゴッドタン』は、佐久間宣行が総合演出を務め、おぎやはぎ劇団ひとりらも出演した『大人のコンソメ』(2003年10月~2004年3月)が前身となっている。やはり短命に終わったこの番組の後期人気コーナーが「ブルードラゴン」だった。1対1で対面した二人の出演者が相手に指一本触れず、舌先だけの話術で相手に青汁を飲ませるという企画。これが「あるミッションに喋りを駆使して挑む」という初期『ゴッドタン』の基本コンセプトとして継承された。
実際、2005年の『ゴッドタン』は「小沢真珠を土下座させろ」「小林恵美にキスしてもらえ」「及川奈央のパンティーをもらえ」など、そのコンセプトを守った企画がほとんどだった。この路線は現在も続く人気コーナー「アイドルのおっぱいを見せてもらおう」に昇華されていくことになるが、これだけではやはり長くは続かなかった。前述のとおり番組終了が決定。しかしそんな中で光明が見えたのが初期『ゴッドタン』最後の企画「第1回神様対抗キス我慢選手権」だったのだ。


第1回キス我慢選手権は、キスを迫るセクシー美女の誘惑に、芸人たちが必死で絶える姿をウォッチングして楽しむという単純なもの……のはずだった。
その刺客として抜擢されたのが現役セクシー女優のみひろ。今でこそ、現役のセクシー女優がバラエティ番組などに出演するのは珍しくなくなった。が、当時は仮に出演したとしても賑やかし程度。第一線で活躍するセクシー女優を、企画の核となるメインのプレイヤーとして起用するのは画期的だった。(折しも、同じ2005年10月に始まった同局のドラマ『嬢王』でも現役AV女優の蒼井そららがメインキャストを張り大きな話題を呼んでいた。)


みひろは日村勇紀小木博明を次々と堕とすと、遂に劇団ひとりとまさに“運命の出会い”を果たす。

「ミッションじゃないよ。省吾に逢いたいから来たんだよ」

というみひろの一言で心のブレーキが壊れた劇団ひとりに「省吾」というキャラクターが憑依した。アドリブ心を持った二人の過剰なイチャイチャ演技はスイングし始める。二人がその状況に酔えば酔うほど、大きな笑いに変換されていった。
しかし、この企画の可能性の拡がりを予感させながらも番組は一旦終了。再開まで1年あまり待たなければいけなかった。


当時、お笑い界はオリエンタルラジオらのブレイクで空前の若手芸人ブーム。『エンタの神様』などでキャラクター芸人が量産されていた。やがてショートネタブームの流れは『爆笑レッドカーペット』や『あらびき団』に結実する。そんな中、劇団ひとりは言ってみれば中途半端な立場にいた。若手中心のネタ見せ番組でネタを見せるようなキャリアでもなく、何よりそのネタはマニアックでテレビには不向き。それでも器用な劇団ひとりはゴールデンのパネラーをそつなくこなしていたが、その狂気の持って行き場所を失っていた。初期『ゴッドタン』終了後の2006年、持ち前の物語脳を小説に昇華させた『陰日向に咲く』がベストセラーになると、ますます劇団ひとりは「知性派タレント・劇団ひとり」を演じるようにテレビを生きるようになっていった。そんな劇団ひとりの狂気を救ったのは、「ここでやってる仕事と普段やってる仕事が同じ商売とは思えない」(注1)と彼がこぼす『ゴッドタン』の再開だった。


2007年1月4日、特番として『ゴッドタン』は生還する。やはり、番組再開の命運を担ったのは「キス我慢選手権」だった。

「省吾とだったら、なんでもできるよ……」

“芝居”を強く意識したみひろは劇団ひとりを見つめてそう囁いた。その瞬間、劇団ひとりの妄想と憑依とナルシシズムのスイッチが入った。過剰に劇的な芝居モードに入り、文字どおり“筋書きのないラブストーリー”が始まったのだ。
ウォッチングルームにいた“モニタリングの天才”おぎやはぎバナナマンはその変化を敏感に察知した。「おおおー!」とテンションが上がり歓声をあげる。するとそれまでバラエティ的な撮り方をしていたカメラマンもアドリブでドラマのようなカット割りをし始めた。それに呼応して他のスタッフもセッションを楽しむかのようにその流れに乗っていった。元々は「キスを迫る駆け引き」を楽しむ企画だったはずが劇的にその性格を変え、それまでの企画が色あせて見えてしまうほどの進化を遂げたのだ。


その大爆発が評判となり、4月からは2度目のレギュラー放送が開始。初期『ゴッドタン』から内容は一新、以前の「あるミッションに喋りを駆使して挑む」というコンセプトにこだわらず、多種多様な企画が生まれていくことになる。それはプロデューサーである佐久間さえも、その後長く続くと思っておらず「その時その時で面白いことを詰め込んじゃえ!」(注1)と舵を切った結果だった。
構成作家のオークラは、『ゴッドタン』では他の番組や舞台とは違う作り方をしていると証言している。
今まで舞台などでは、いかに成立させるかを考えてネタを作ってきたんですが、『ゴッドタン』では成立してないものをやろうという気持ちがあるんです。ちょっと破壊的なことをやろうって。セオリーとしてやらなきゃいけないをやらないことで、新しいものが生まれる瞬間があるんです」(注2)。
そんな中で生まれた企画のひとつが、今や「キス我慢」と並び番組を代表する企画の一つである「マジ歌選手権」だった。2回目のレギュラー開始から1ヶ月後の5月2日に第1回が放送された。芸人たちが笑わせることなど考えずにマジ歌を歌う。それだけの企画なのに、審査員が牛乳を口に含んだ瞬間、笑いのセンサーが急に敏感になるかのように、マジ歌シンガーたちの一挙手一投足が可笑しくてたまらなくなる。彼らが格好つければつける程、面白い。思えばそれは「キス我慢」での劇団ひとりのマジ芝居への笑いの構造と同じだ。
過剰な美意識こそ面白い。それを実現するためには徹底して舞台を作り上げなければならない。いつだってフルスイングだ。だから空振りだってある。悪ふざけが過剰すぎて面白くない時すらある。そんなことを続けていたらいつの間にか『ゴッドタン』としか呼びようのない世界観ができあがっていた。みひろを筆頭に谷桃子やあいな、大竹マネージャーなど番組内スターが次々と生まれるのはその証明だ。


「キス我慢選手権」はその後も進化を続ける。
第3回は2週にわたり、2007年8月29日と9月5日に放送された。それまでの「キス我慢」は部屋の一室や学校を舞台にしていた。第3回も最初は大学の教室が舞台だった。が、過剰なドラマ性を追求し始めたスタッフは遂に「悪の組織」的な概念を導入。みひろが監禁されている部屋のようなセットまで用意したのだ。劇団ひとりの才能はそれにも呼応する。その設定に全力で乗っかりドラマティックな物語に仕立てあげていく。ひとりが劇的な物語を演じれば誰かが死んでしまうかもしれない。そう考えたスタッフはエキストラに警察まで用意する周到っぷり。とてもアドリブとは思えない劇団ひとりの即興性と彼の性格を知り尽くす故のスタッフの行き届いた準備。それが相まって台本があるんじゃないかと疑われるというジレンマまで発生してしまうのだ。同じ回に出演し「キス我慢」に挑戦した山里亮太は思わずつぶやいた。「同じルールで僕やったんですよね?
それでもまだ最終目標は「キスを我慢すること」だった。しかし、第4回(2008年8月13日、20日放送)にもなるとその設定すら危うくなってくる。もはやキスではなくドラマこそがメインになってしまうほどだった。
そしてみひろ編ファイナルとなった第5回(2010年1月3日放送)は85分特番として放送された。遂に、女優陣以外のキャストとしても舞台でも第一線で活躍する入江雅人みのすけをキャスティングする力の入れよう。ストーリーも、ミステリーからSFへと、劇団ひとりでさえ劇中「ついていけない!」と叫んでしまうほどめまぐるしく展開する感動巨編に。それでも前回の反省を踏まえてか、「キス」は絶望の淵に立たされたみひろの「希望」そのものという重要な意味が与えられた。「キス我慢」が『ゴッドタン』の希望であるのと同じように。

「もっと簡単に笑わせることできるんちゃうか?」

今や番組を好きすぎて、1年に1度、ギャラ度返しで『ゴッドタン』に出演する東野幸治はそう言って羨ましげに笑った。(『ゴッドタン』2010年6月25日放送)
労を厭わず、一分の隙もなく悪ふざけを積み重ねる。スタッフも芸人もくだらないことを愛し、それに全てを捧げている。全身全霊の悪ふざけ。それこそが『ゴッドタン』の真髄だ。
視聴率はわずか1%台。それでもその1%の人たちが絶対に離れず熱烈な支持をしている。たくさんの人が見ているからいい番組ではない。「(僕のように)面白いテレビを見れば、明日もがんばれる人がちゃんといると信じて、そういう人たちに向けて『これ面白いでしょ!』というものをやり続けたい」(注3)と佐久間も言うように、見ている人たちを大事にして、その人たちに向かって作られているから、深く愛されるのだ。それこそが紛れもなくいい番組ではないか。
番組DVDが2011年3月に発売された際、ドラマ演出家の大根仁は公式HPに寄せたコメントで『ゴッドタン』をこう評している。
作ってる人、出てる人、そして観る人の全員が笑ってる。全員が愛してる。それがゴッドタン!


2011年10月。『ゴッドタン』は放送枠がさらに深い時間へと潜っていった。放送時間も短縮された。予算も削減されただろう。それでも続けることを選んだのだ。
ある年の『ゴッドタン』新年会で劇団ひとりは「今やってるお笑い番組はこれだけなんで、この番組が終わったら僕は司会者になります。だからもし予算がきつかったらギャラはいらないから、番組続けてください」と懇願した。その思いはスタッフも同じだ。佐久間は「『ゴッドタン』が終わるときは、テレビマンにおける青春時代の終わりだ」とみんなでよく話しているという。(注1)
そうなのだ。『ゴッドタン』は僕らテレビっ子を青春時代に戻してくれる秘密基地なのだ。
「青春」とは「無謀」を「奇跡」に変える魔法の言葉だ。


情報性もグルメも視聴率もない深夜2時の小さなお笑い番組。続いていることさえ奇跡に近い番組が映画化される、という信じがたい発表がされたのは2013年4月18 日に開催された「マジ歌ライブ」でのことだった。その時、驚きに包まれた会場が程なくして笑いが起こり始めるという不思議な状態になった。そんなバカなことをやるのは『ゴッドタン』だけだ、と呆れながらも無性に嬉しくなってしまった末の笑いだった。
それに先駆けて行われた第6回の「キス我慢」(2012年10月3日、6日放送)は、まさに映画に向けた前振りだった。実はみひろに代わるヒロインがなかなか決まらず難航していたというキャスティング。最初に決まった“相手役”は岩井秀人だったという。岩井は劇団ハイバイの主宰を務める小劇場界の雄。劇団ひとりと岩井秀人のアンサンブルは想像を超えたハーモニーを奏で、「キス我慢」をこれまでとはまた別次元の世界へと導いていった。
そして2013年6月28日『キス我慢選手権THE MOVIE』が完成。監督も務めた佐久間は「偶然と知恵と勇気で撮った奇跡のような作品」(前夜祭舞台挨拶)と胸を張る。
テレビの技術スタッフだったから可能だった自由で無茶な撮影スタイル。そして7年にわたるスタッフと出演者との信頼関係があったからこそ成立した物語。それは映画館で笑い合うという、映画を観る悦びを感じさせてくれるという意味では“映画”としかいいようのないものだった。ガラパゴス的に独自進化した日本のAV、演劇、Vシネマなどが同じく独自進化したテレビバラエティと混じり合ったことで、うっかり映画を劇的に独自進化させてしまうような奇跡を起こしのだ。


こんな未来が来るなんて誰が想像しただろうか。

「未来はアドリブで変えられる」

ならば、クソッタレの過去も、笑い話に塗り替えて笑い飛ばせばいい。アドリブで面白い未来も作ればいい。だったら、今は「キス我慢」で笑おうぜ。


(引用元)
※注1 『Quick Japan』Vol.91

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※注2 『お笑いパーフェクトBOOK』

※注3 『Quick Japan』Vol.82

*1:たとえば、スピンオフ企画として「主観映像でキス我慢」とか「ガチ素人相手にキス我慢」などが http://special.streaming.yahoo.co.jp/godtongue_kiss/ が公開されてます。

*2:実は依頼をいただいた文量を大幅に超えてしまい、どこを削ろうかと悩んでいたんですが、削る前の原稿を送ったら編集の方に「そのままで行きましょう!」とページ数を増やして頂いたものです。