MMAアーカイブス「小方のペンを拾う」


遂に、明日は「PRIDE武士道」。
その主役は間違いなく五味隆典でしょう。
魔裟斗のようなルックスとそれに見合う実力からくるスター性。
山本KIDのような生まれ持った素質と、その魅力を際立たせる性格からくるカリスマ性。
須藤元気のような、知性と常に客を驚かせようとするが当たり前という思考のエンターテイメント性。
そういったエースに必要な要素を、片桐はいり似のルックスで「強ければいい」とだけ考えてずっとやってきた彼に突然持てといっても酷なわけで、それでもその域をいつの間にやら手に入れた爆発力で懸命に目指す五味は人間としての魅力を備えたいいエースではないかと思うわけです。
例えば、アゼレード戦でレフェリーの制止を振り切って殴りる、というのはKIDを思い浮かばせずにはいられないのだけども、私は全く別のシーンを思い出しました。


それは、五味がデビュー間もない頃の話。
当時まだクラスBだった彼は、確か当初予定された選手の負傷欠場かなにかで、クラスAのランカー桑原“マッソー(マッスル)”卓也と3戦目にして対戦するという大抜擢を受けました。
当時、桑原は修斗の中でも「地味強」の代表格。お互いにレスリング+パウンドというタイプなだけに静かな試合展開が予想されていました。んが、蓋を開ければ打撃の乱打戦。そして最初に倒れたのは五味でした。
その時です。ダウンカウントを数えるレフェリーの小方のボールペンが胸ポケットから落ちました。すると五味は何事もなかったように立ち上がりそのペンを拾って、小方に渡そうとします。小方はそれを受け取らず、まずファイティングポーズをとるように促したのです。
緊迫した場面の滑稽な場面として有名ですが、「余裕のない状況をさも余裕のあるような行為をすることで、余計に余裕のなさを露呈する」ことを一時期仲間内では「五味がペンを拾う(あるいは、小方のペンを拾う)」と呼んでいました。


KIDはビビってる相手に追撃し、五味は自分を押してる相手に追撃。
これは似て非なるもの。まさに、この時の五味は「ペンを拾った」ものでした。
ここにこそ五味の人間的な魅力があるのではないかと思うのです。
恐らく、今回川尻戦ではまた「余裕のない」五味の姿が見れるはず。
その時、どんな魅力的なシーンを見せてくれるのか楽しみ!