越中詩郎に泣かされていた森達也


同じく「クイック・ジャパン Vol.70」では「マッスル」特集の中で、マッスル坂井森達也が対談している。
森は「マッスル自体がすでにプロレスのドキュメンタリーだ」と讃えたうえで、的確に課題も提示している。

ただ、虚実の皮膜ってあるじゃない。お互い了解のもとでやってても、ちょっと一瞬「今のキック、お前ないだろ」って顔をするとき、あるでしょ。僕はそんな瞬間を見ることがとっても楽しいんですよ。そういう虚実の曖昧な部分が、マッスルでは出しづらいとういか、逆に成立しなくなるよね。真剣にやってるという建前があってこその虚実の皮膜ですから。


そんななか、この対談で個人的に印象に残ってたのは、とっても森さんらしいなあ、と思ったこのエピソード。

昔、高田延彦越中詩郎の名勝負数え唄ってあったでしょ。高田がキックを入れて、越中がダウンして、起き上がってきたところをまたキック、ダウンってやるじゃない。もう様式美。越中なんて蹴られまくって、胸、真っ赤ですよ。それを、たまたま隣にいた妻に、妻はプロレスにまったく興味ないんだけど、「この越中は蹴られることがわかってて、起き上がってくるんだよ。高田も内心、『痛いか、ごめんな』と思いながら、絶対に足の力を抜かずに蹴るんだよ」って説明してたら、だんだん涙が溢れてきちゃって。妻も「何で泣いてんの」って呆れてた(笑)。