松本人志とビートたけし


ついに6月2日に公開となる松本人志の初監督映画「大日本人」。
同じ日には北野武監督の「監督・ばんざい!」も公開されることで、マスコミ的にはお笑い界の大物同士の対決ということで格好のネタになっている。
ところでファンの間ではすでに有名な話だが、この二人は北野武責任編集の「コマネチ!」にて対談を行っている。

たけし「初めて『その男、凶暴につき』を撮った時も、映画なんかぶっこわしちゃえって好きなように撮ったんだけど、時々弱気になってね。このまま最後までぶっこわしていけばという感じがあったんだけど、まとめようとしたり。こんな壊し方面白いなと思うんだけど、金使って、スタッフ何人も使っているから、ちらっと下向いているヤツがいると、ああ、そうとう気になっているんだなとか考えてしまう。だから、いいところと悪いところがはっきり出たね。映画は最近やっと壊せるようになったかな」


松本「僕はたけしさんの映画はほとんど見てます。『その男、凶暴につき』が一番好きですね。一発目からたけし節があったじゃないですか。それがすごいなと思いました。自分流みたなものが出たら、僕はほとんど成功だと思います。それがありましたもんね。僕は刑事が犯人を追いかけて、途中で走るのをやめて歩き出すところが好きなんです。ああいうのが今までないところで、壊してるといえば壊してるし……」


たけし「ただ、松本人志を追いかけているヤツにとっては、壊してきたってことに気付くはずなんだけどね。急に典型的な漫才をやったら腹抱えて笑うと思う。おれと相棒が普通に出てきて、きみ、昨日どこいったの? バカなこと言うんじゃないよと言ったってドカンドカン笑うはずなんだよ。だけど、笑う人たちっていうのは一握りしかいない。それはテレビの視聴率の数じゃないんだ。テレビというのはポンとチャンネルをつけてみんなで見てるから、一般の人からは、何してるの、この人って言われる」


松本「僕は小学校から漫才一本でやってきました。それは漫才一筋なんて、そんな格好いいものじゃなくて、ただの負けず嫌いなんです。自分が負けそうにないことというと、お笑いしかない。しかし、今は一般人にこっちから合わさんといかんような状況になってきてるじゃないですか。でも、絶対違うんです。一般の人がいま興味があるのは、ブランドものとか、海外旅行とか、そういうのが自分らのランキングの中の上位に入っている人たちに、僕の笑いを評価されるのはちょっとつらい。じゃあテレビで仕事をするなという話になるんです。今そういう状態なんです」


たけし「おれは負けず嫌いじゃなくて、勝たず嫌いだから(笑)。結局テレビというのは自分にとっては、松本さんと反対方にいて、どうでもいい、評価されなくてもいい、というところへいってる。その代わり金はもらう」


松本「僕もその考え方にしようかなと思ったんです。アホなふりして、だまされたふりして、金だけぶんどって。それは思ったんですけど、まだそこまで開き直れない」


たけし「それはまだやることいっぱいお笑いに残ってると思っているからだな」

この対談が行われたのが平成10年。それから約10年が経ち、ついに松本は以前から「笑える映画を撮りたい」と語っていたとおり映画を作った。その時「(映画を撮って)それで次の方向性が決まると思うんです。映画をやってみた上で、やっぱりテレビでコントをやりたいと思うかもしれないし、映画じゃなくてビジュアルバムみたいなものを定期的に出そうとなるかもしれないし*1」と話している。
果たして松本人志はどこへ向かっていくのだろうか?

コマネチ!―ビートたけし全記録
北野 武
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*1:日経エンタテインメント!」2003年10月号より