受け手としての甲本ヒロト

完全に記事にするタイミングを逃してしまったけど、もうだいぶ前に復刊された「splash!! *1では、「ぼくたちのスタンダード」と題した特集で、甲本ヒロト水道橋博士大根仁山下敦弘長嶋有タナカカツキといった各ジャンルを代表する面々が、自分にとってのスタンダードを語っている。そのインタビューはそれぞれ金言だらけなのだけど、特に甲本ヒロトの言葉は、一人でも多くの人に読んでもらいたいので、今更ながら紹介したい。


甲本ヒロトは「受け手」としての自分の立場を隠さない。

日々やりたいことをやってるよ。ただ、レコードは毎日朝から晩まで聴いてます。僕が音楽が好きっていうのは、まずは聴くのが好きなんだ。
          (略)
ずっとステレオセットの前にいます。ときどきライブやります(笑)。ときどきレコーディングもするし、ときどき曲も作ります。でも、僕は「何の人?」って聞かれたら、「レコード聴く人」って答えます。

甲本ヒロトによる立川談志評」を見ても彼が非常にすぐれた批評家であることが良く分かる。

僕にとってね、勉強なんてものはないんだ。学ぶものは何もないの。楽しむだけでいいんだ。そこから何か学ぼうとか、ちょっとでも賢くなろうとか、自分の得になることにつなげようとか、そんなことは、これっぽっちも考えないんですよ。
          (略)
影響は受けますよ。でも、それは意識することじゃないからね。お笑いの場合は、爆笑するっていうことが最大の影響だと思うんだ。で、爆笑するんだけど、どんなネタをやっていたか忘れてるのね。ただ爆笑した、っていう記憶だけ残るの。それでいいんだと思う。見て楽しいか、聞いて楽しいか、そのことだけが重要なんだ。たとえば、内容がひどいものでも面白いものってあるじゃない? 一方で、素晴らしい内容なんだけど、ちっともつまらないものってあるでしょう?
          (略)
だから、内容なんてどうでもいいことなんだ。たとえば、アルバート・キングチョーキングとかさ、「クゥィウン」って、その一発で小説一冊分の感動があるわけ。「クゥィウン」だよ? それだけで、「生きててよかった」とすら思うんだ。面白いって、そういうことなんじゃないですか。それは考えれば考えるほど、語れば語るほどチンケなことになっていくことだと思う。
          (略)
歌詞の内容はどうでもいいことだけどね。受け取り側はそうやって付加価値を付けていってくれればいいんだけど、出してる俺たちにとって、歌詞の内容なんてどうでもいいんだ。あ、いや、歌詞自体は、とっても重要なんだよ。(略)どうでもいいに決まってるじゃん。だって、人間の頭で思いつくことだもん。たいしたことねえよ(笑)。

この「歌詞の内容なんてどうでもいい。だけど歌詞自体は、とっても重要」という考え方は音楽に限らずとっても重要なことだと思う。これを理解していないと頭でかっちになったり、逆に物事の表面だけしか捉えられなくなったりとかしてしまうのだと思う。

こんなふうに「世の中なんてチンケだぜ」「涙に値するものなんて何ひとつないんだぜ」「泣いてる場合じゃねえ、死ぬまで爆笑できるんだぜ、この世界はよぉ」っていう感覚を、ロックンロールのおかげで感じられていると思うんですね。それに出会えたことは、自分の実力だとは思ってないし、努力したとも思っていない。僕はただ本当にラッキーだったと思うんです。儲けたんです、僕は。それで、その儲けたっていうことを自慢しているんです。

映画でも、絵画でも、何でもいいけどさ、人はどうしようもないくらい感動を体験をすることでしか変われない部分もあるし、それでしか成長できない部分もあると思う。お笑いで爆笑することも感動のひとつだと思うし。で、僕がお笑い番組ばっかり見ているっていうのは、お笑いが、いまのメディアの中で最もストレートに感動させてくれているものだからなんだ。

以上のようなほんの一部引用だけでも凄さは伝わるかと思うけど、ホントに全文読むと、何故だか涙が出てきてしまうようなロングインタビュー。是非とも手にとって読んでください。

splash!! 1
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*1:早く第2号が読みたい