鳥居みゆきの虚言の果て

先日放送された「ナイナイプラス」の鳥居みゆきゲストの回は、こちらの『鳥居みゆきの「除霊体験」〜出したらおどろいた〜(はてなでテレビの土踏まず)』でも紹介されているとおり抜群に面白かった。
過去、鳥居みゆきがメインで出演した番組の中でも屈指の出来ではなかっただろうか。
ところで、その番組の最後に一瞬告知されたのが、鳥居みゆきによる短編小説集「夜にはずっと深い夜を」の発売。
劇団ひとりから始まった芸人小説出版の流れは、千原ジュニア品川ヒロシの自伝的小説のヒットで加速し、やや静かになったものの現在も渡部健の「エスケープ!」や板倉俊之の「トリガー」といった自伝的小説ではないフィクションを書く傾向も復活してきた。
そんな中で、個人的に真打と思えるのが鳥居みゆき
彼女には是非、小説を書いてほしいと思っていたので、遂にこの時が来たか、という感じ。
安部公房が好き、と公言する彼女がどのような物語で、どんな言葉を紡ぐのか今から楽しみ。


小説発売を前に、そんな彼女の言葉や哲学をこれまでの様々なインタビューから振り返ってみたい。
インタビューでも芸風同様、突拍子のないように見える言動で答えをはぐらかすことが多いが、その中でも僅かに垣間見せる彼女の真意と思えるような部分を拾ってみたい。
まずは、そのコントのテーマに頻出する「死」について。

死を考えることで生きてることの重さを知る。死を隠蔽しすぎる風潮もよくないと思う。隠蔽したって死ぬものは死ぬんだから。軽々しく言っちゃダメとは思いますけどね、死に対して熱く何かを作ればいいと思います。(Pop Styleブログ

それが「死への願望を表しているのか?」という問いに対して彼女はこう言っている。

いえ、むしろ逆です。生への願望です。私のファンの人で『私も病気なんです』って言ってくる人がいるんですけど、そういう人が例えば『死にたい』とか思ってるときに、『がんばれよ』って気安く言ってもらいたくないと思うんですよ。私もそうだから、わかるんです。そんなときに私のネタを見てほしいんです。『やだなー、全部ダメだー』って思って励まされたくないようなときに、もう一層ちょっと下の部分に触れると見えてくるものがあるんです。だから、私のコントは必ず誰かしら死ぬんです。でも、それは死を侮辱しているわけじゃなく、生きたいという願望なんです。死をもって生を知るんです。(日刊サイゾー


彼女のコントの世界観はどのように作られていくのだろうか。

決まりきったことでしか笑えないなんてつまらない。その世界を空想できたほうが面白い。(Pen 2009年 8/1号

普段生活してて切れやすいんですよ。危険体質なんです。だからそういうのを内に秘めて、色々な角度から出たものがコントなんです。あれはあれは全て私のかわいい人格なんです。(@TOWER.JP

私も最初は「あるある」をやってたんですよ。そのうち「あるある」やってる人が増えてきたんで、そんなもの誰がやるか、と唾吐きかけてやったんです。それ、背徳感っていうんです、知ってます? 背徳感。私それを追い続けているんです。(クイック・ジャパン77

マサコにしても、スケッチブックをバカにしてスケッチブック・ネタやってるっていう、全部をバカにしているっていう。かといって奇を衒ってるだけにはなりたくないんで、奇を衒ってる芸人大っ嫌い!(クイック・ジャパン77

彼女は「奇を衒う」ことや安易に「シュール」と言われることを拒否する。

シュール? 私のネタってシュールなの? 私は、自分の許容範囲外のことをシュールって言うんだと思います。だから自分が受け止められない、分からない世界のこと。自分の知識の範囲外のことをシュールって言っちゃってるだけだと思うんです…。だから、これが分かる!というのであればそれはシュールではありません。(@TOWER.JP

それは彼女の敬愛する杉浦茂をはじめとして、本当の「シュール」を知っているからだろう。
実際に彼女のネタは非常に論理的だ。
発した言葉を契機に、即座に次の言葉が出てくる。
時にそれが支離滅裂と思われるのは、彼女がその言葉の意味よりも響きを大事にしているからだろう。

『大騒動』って言ってる言葉があるんですけど、そこは「だいそうどう」じゃないといけないじゃないですか、でもあえて響きで「おおそうどう」にした。私ね、響きにこだわるんです。だからね、あのね、言語野を刺激するネタを作りたいなと思ってたんですよ。(クイック・ジャパン77

そんな彼女の目指す場所はどこにあるのだろうか?

神様と言えばヒトラーですね。「理想は破壊の上に作られる」っていうところがかっこいいなぁと思って。やっぱりあの演技力はすごいなと思って。例えば思想がなくても、いや例えばですよ、渡されたものを完璧にこなせるじゃないですか、そういうところはすごい。みんなを巻き込む力も持ってるってことは、やっぱりそれは魅力がある。ああいう風になりたい。(クイック・ジャパン77

「例えば思想がなくても」と語るように、不要な意味づけを徹底的に拒否する姿が垣間見える。

笑いには明確なスイッチがあります。けれど私はその裏側の電源を入れたい。普通の笑いはまぶしすぎるから。(Pen 2009年 8/1号

そして、彼女のインタビューには必ず最後にこう付け加えられる。

まあ、全部ウソですけどね。ふっふー。