「本気を出すのも才能」有吉弘行の“計画”

4月20日(日)、『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 』刊行記念ということで急遽、下北沢の本屋B&Bでトークイベントをやることになりました。

戸部田誠×大谷ノブ彦×相沢直×小島研一
てれびのスキマ大谷ノブ彦がキキマス!」


デビュー時から現在までの、タモリの様々な発言やエピソードを丹念に読み解き、その特異性と唯一無二の魅力に迫った『タモリ学』。
そして、メールマガジン水道橋博士のメルマ旬報」にて連載されたダウンタウンナインティナインなど7組に加え、有吉弘行をテーマに書き下ろして収録した『有吉弘行ツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』。 豊富なテレビ視聴、膨大な読書量、過去をさかのぼって広く資料を集めるスタイルで、お笑いタレントを中心とした芸能人を考察するてれびのスキマ(戸部田誠)の初単行本発売を記念して、『有吉弘行ツイッター〜』でも取りあげられているダイノジ大谷ノブ彦さんをお招きして、「タモリとは何か?」「お笑いを語ることとは?」などについてお話しいただきます。
http://bookandbeer.com/blog/event/20140420_bt/

というわけで、大変ありがたいことにダイノジ大谷さんや相沢さんに来ていただけることになりました。致命的に人前でのトークが苦手なので、おそらく、お二人におんぶにだっこ状態になるかと思いますが、やるからにはがんばりますのでよろしくお願いします!
ちなみに進行を務めていただく小島さんは『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 』の編集をしていただいた方で、あの『ガキの使い』で月亭方正(山ちゃん)に24時間インタビューを敢行した方のうちのひとりです。


と、告知はこのへんにして、今回は『怒り新党』(テレビ朝日)での話を。

本気出すのも才能

2014年1月3日の『怒り新党』「お正月SP」で「私の周りには『俺は出来ないんじゃない、やらないだけ』『やればできるけどまだやらない』と言っている人が複数人います」という怒りメールが届けられた。いわゆる「俺はまだ本気出してないだけ」理論である。
それに対し有吉弘行は「多いでしょうね」と肯く。

有吉: 「それやったら売れるの分かるんですけどね」みたいな。「俺まだそっち行きたくないんですよね」とか。
マツコ: ムカつく!
有吉: (笑)。やってみろ、じゃあ!
マツコ: そんなヤツいるの?
有吉: いる、いる! いっぱいいますよ。芸人の世界以外でも音楽だろうが普通の会社だろうが。
マツコ: ま、いいんじゃない?それを言ってなきゃツラいんでしょ。カワイイなぁって思って見てればいいじゃない。言い訳するにももっと違う言い訳があるだろうにそんな言い訳しか思い浮かばないちょっと頭の足りないカワイイ子だなって思ってればいいじゃない。
有吉: それが自分にまったく関わりない、たまに(耳に)入ってくるくらいならいいんだけど、たとえば自分の親族であったりだとか、身内だとか…。
マツコ: それはまたやっかいよ。
有吉: でしょ。これはね、どうやって矯正してやろうかって思うわけ、コイツを。
マツコ: 難しいなぁ……、今直面してる、私……。
有吉: (笑)。

マツコは自分のマネージャーも同類だと嘆き、そんな時、どうすればいいのかを有吉に改めて尋ね始める。

有吉: 「本気出すのも才能なんだ」ってことなんですよ。だから「本気出してないだけ」じゃなくて「お前、本気出せないんだよ、一生」っていう話してもう辞めていく方向に僕は仕向けます。そんな生意気なこと言ってるヤツは。本気出す才能がないんだもん

マツコはその本質的で核心を突いた言葉に「ヤメてもう、それ以上言うの……。すぐそこにいるから…」と怯えると有吉は「いや、彼のことじゃない(笑)。芸人ね」と話を芸人限定だと翻す。

有吉: 芸人とかで「まだ本気出してない」「これはやるの嫌なんですよ」っていうヤツは、「やってから言えよ」って。「やってみな、絶対できないから。才能ないから」って言います。こてんぱんに。

するとマツコは「たださ、どうだった?」と問いなおす。「有吉さんも一度ツラい思いをされたじゃない? その時に自分がもう一度やれるっていう自信はあった?」と。

有吉: 「俺、面白いな」って思ってた(笑)
マツコ: だから根拠の無い自信あるでしょ!
有吉: これはね、根拠の無い……まあ、そうなんだけど、「本気出してない」に近いんだけど、「本気出させてよ!」「勝負させてよ!」になっちゃうんだけど。だって「俺より面白くないヤツ、いっぱいテレビ出てるじゃん」っていう。だからまだ測れるんだよね、実力を。
マツコ: でも、それってあくまでも自分の尺度じゃん? 誰かものすごい公平なジャッジが出来る人がいて、その人に聞いて「あの人よりあなたは面白いからおかしいですよね」って言われたわけじゃないじゃん?あくまでも自分がテレビを見るなりして「俺のほうが面白い」って思ってたわけじゃん。それってやっぱり自分の中のものじゃない?

猿岩石ブームが終わり、仕事がなくなっていった有吉。こちらに書いたように一時は『あの人は今!?』のような番組に呼ばれることが多くなっていった。その当時の心境を自著『お前なんかもう死んでいる ~プロ一発屋に学ぶ50の法則~』でこう振り返っている。

「人間、努力しなきゃいけない!」とか、「努力すればなんとかなる!」とか、よく言いますよね。
ハッキリ言って、努力しても無駄だと思います。そんなもん意味ないと思います。特にどん底まで落ちたら何やっても無駄です。実際、無駄でした。(略)そもそも努力しようにも努力のしようがないですから。

実際に『あの人は今!?』のような番組に呼ばれれば、“自分のダメっぷり”を見せるしか道はない。ここで要求どおり“ダメっぷり”をアピールしても、「こいつ、ダメなんだ」と思われて終わり。逆に「自分は面白い」とアピールしたら、番組の主旨に合わないことをする「使えない」芸人のレッテルを貼られてしまう。そもそも仮に面白くなってもカットされてしまう。結局、どっちに転んでも「使えない」「ダメな」芸人のままなのだ。この手の番組では誰からも評価を得ることはなかった。


怒り新党』では「アタシもそうなのよ!」とマツコは自分も無名時代、有吉同様、根拠の無い自信を拠り所にしていたと明かす。

マツコ: ホントに誰も評価してもらえなかった時に、「なんで誰も気づかないんだろう?世の中の目は節穴か?」と。根拠の無い自信よ、だから。そんなの誰からも言われたことないのよ。「お前は物書きの世界で成功する」とか。その先のテレビが待ってたわけだけど。こんなの誰も言ってくれたわけじゃないし、あくまでも自分の中で「アイツよりは面白い」とか信じてやってただけじゃない。だとするならさっきの手紙の人(「俺はまだ本気出してないだけ」などという人)となにが違うの?って思うところもあるんだよね。あん時の自分がそれ(有吉の「本気出すのも才能」)を言われちゃったらもうぐうの音も出ないのよ。「だってアタシのほうが面白いんだもん!」って言うしかないわけよ。その人も一緒くたに愚かだって言っちゃうのは違うのかなって過去の自分を振り返ると思うんだよね。
有吉: いや。(マツコのは)ちゃんとした意見じゃん。俺もそうだなって思うわけ。だからこれ言ってるヤツをバカにしちゃいけないっていう風潮になっちゃうのが嫌なわけ。全員が必死になってやっててチャンスなくて、じゃなくてホントに軽い感じで言ってるヤツがいっぱいいるから。
マツコ: 今のアタシが(過去の自分を)見れば、アレが本気だったのかなって思うんだよね。
有吉: それはでもその時なりに本気でやってるでしょ? 本気でやってればその台詞は出てこないと思うんだよね。「本気出してるんだよ、なんとかしてくれよ!」「助けてくれよ!」って(笑)。
マツコ: アタシはそこで「本気出してます」って言えない人。カッコつけたい人だから。
有吉: でもやっぱり「本気出してます!」って言うヤツを助けてやるじゃん、先に
マツコ: その意地を張れないくらい追い込まれているかもしれないしね……。

本当の自分

4月2日の放送では、「本当の自分」がいるのかわからなくなってしまうという投稿メールが読まれ、そこからやはり有吉の「どん底」時代の話になっていった。

マツコ: ねぇ、「本当の自分」って何?
有吉: へへへ。僕は昔から「本当の自分」なんてないって言ってる。
マツコ: 私もないと思うのよ。たぶん人間ってタマネギみたいにどんどんどんどん皮を剥いてったらたぶん何にもなくなると思うのよ。ポリシーみたいなものなんて

プライベートに自分の意思なんて「何食べようかなぁ」くらいしかなく、誰かが介在した時点でどうでもよくなるという有吉の話に同意したマツコは続ける。

マツコ: 私、みなさんにこういう場所を与えられてどうにか「これやってください」「あれやってください」って言われるから、なんかさも自分の意志があるかのように動けてるけど……どうしようね、私?
有吉: フッ、どうしよう…?(笑)
マツコ: これ、ホントにゾッとする時あるんだよね。仕事なくなったら私、何をやって生きるんだろうって。なんにもない、やりたいことが。逆に知りたいのは、ものすごい自分の将来っていうのをさ、すごい計画を立てて生きてる人たちっているじゃん。ああいう人たちっていうのは、その到達目標に向かって、これをなし得るためにはこれをしなければいけない、これを手に入れるためにはこれをがんばらなきゃいけないって生きてるの?
有吉: そうじゃない?
夏目: そういう方もいらっしゃるでしょうね。
マツコ: スゴいと思う! でも、あなた、がんばってさぁ…、どうしたの? 一度がんばった後のさ、(どん底を乗り越えた)強靭な意志というかさ……?
有吉: 僕もね、結局ね、高校生くらいの時に自分の人生設計を立てたんだ。一応この世界に入る上での。18歳位にどっか潜り込んで、とか。今覚えてるのは35歳で「ラジオのレギュラーを掴む」っていう計画だったの、当初は。で、40歳で「テレビに出る」くらいだったの。
マツコ: ほう。
有吉: 「テレビのレギュラーをもらう」くらいだったの。だから何があってもその時の計画よりは上手くいってるなって感じなの。
マツコ: なるほど…!
有吉: どん底だった時も、にしてもこんなもんだろうって。当初の計画と変わんねえな、みたいな。
マツコ: 要は最初の爆発的なブレイクがイレギュラーだっただけであって。
有吉: そうそう。あと、よくよく考えてピンになった時のことを考えたら、なんとなくこう…。
マツコ: あなたスゴいわね。
有吉: いや、スゴかないけど(笑)。ホントに高校生の考え。テキトーな設計。でもそれが自分の中でなんとなく大事にしてるから。それより良いか、悪いかが判断材料。ま、でも40歳で結婚してないとは思わなかったけどね(笑)。
マツコ: 結婚はいくつの時の計画だったの?
有吉: それは30歳です。
マツコ: はっはーぁ。一番大事なものは手に入れられてないんですね(笑)。


この有吉の「計画」についてや「本気出させてくれよ」「本当の自分なんてない」っていうのは、有吉を考えるうえでとても大きなポイントだと思っていて、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』での有吉に関する書き下ろしで触れており、特に「本当の自分」については重要なテーマのひとつになっています。
こちらも何卒!