喜劇役者・伊東四朗のつとめ

NHK総合で夕方に放送している『ゆうどき』という番組があります。
10月8日のトークゲストに登場したのが伊東四朗さんでした。彼の「喜劇役者」としての含蓄のある話がとても興味深かったのでメモしておきたいと思います。


伊東四朗といえば、何と言っても「電線音頭」のベンジャミン伊東。

1970年代にNET(現・テレビ朝日)で放送されていた『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』で披露され、大ブームを巻き起こしたものです。

伊東「だいたい何がなんだか分からなくて。企画が。収録2週間前ですよ、こういうことやりたいんだって言われたの。意味がわからないと聞いても『なんなの?って言われても答えられない』ってプロデューサーが言うんです。2週間後にオンエアですからって追い詰められて……。台本の裏にこういう格好にしてって絵に描いて。あれ(ベンジャミン伊東の衣装)は自分隠しなんです。(略)こういう格好すれば分かんないと思って。あれをやったやつは誰だってことになってもそのうちに忘れられるだろうと思ってたら、とんでもないことになっちゃって(苦笑)」

この辺りの経緯は『映画秘宝EXモーレツ! アナーキーテレビ伝説』でのインタビューでも詳しく明かしています。

伊東: 『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』の前番組に『ドカンと一発60分!』という、司会が土居まさるさん、桂三枝(現・文枝)さんの番組があったんです。その中のコントで、三枝さんがアドリブで“♪電線に……”とやったもので、『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』のプロデューサーが、その部分をひとつのコーナーとして独立させたいと考えて、小生に相談を持ちかけたのです。「“電線軍団”の団長になってくれ。東八郎さん、キャンディーズ、小松、ハンダースを入れて面白いモノを!」と言われて、何が何だかわからずにキョトンとした覚えがありますね。
---いわゆる“無茶ぶり”ですね。
伊東: しかも収録が再来週と言われ、追い詰められて台本の裏にあのキャラクターを描いて、名前も「ジャッキー」「ヤコブソン」「ベンジャミン」の中から選んで「ベンジャミン伊東」にしたんです。
---あの踊りは……?
伊東: 振り付けも一流の振り付け師がきたのですが、難しい振りにされたらかなわないと思って、勝手に作ってしまいましたね。だいたい、あんなバカバカしいものは3、4回やればつぶれると思ってましたので、誰だかわからないように、あのコスチュームとメイクにして、名前も「ベンジャミン」としたのが真相です。

このようにして生まれた「ベンジャミン」の「電線音頭」は一大ブームを巻き起こします。余談ですが、インタビューに答える伊東四朗の一人称が「小生」なのが味わい深いです。

伊東: ああいったものは照れてやったのでは誰も引いて観てくれないだろうとやったのが逆に良かったのかもしれません。小生の眼が完全にイッてると思った人が多かったんです。なかでもあの藤田まことさんに、部屋の隅に連れて行かれて「四朗ちゃん、あんた大丈夫?」と言われたときには、仲間まで騙しているんだから、ある意味成功かな、とは思いましたね。

『ゆうどき』では、ベンジャミン伊東というキャラクターをこう振り返っています。

伊東「色んなバラエティで色んなキャラクターが出てきてますけど、あれほどバカなキャラクターはそれ以後ないと思ってますね。あんなにバカバカしいものないですもん。そういう意味ではね、誇りに思ってます」

そうして、伊東四朗は「あれ(ベンジャミン)をやるのもシリアスなドラマをやるのも同じ」とシリアスな役も演じつつ、生涯「喜劇役者」として現在も喜劇の舞台に立ち続けています。


番組では、舞台などで共演しているラサール石井伊東四朗の演技についてコメントを寄せていました。

ラサール石井「台本を一字一句変えない。てにをは、すら。だけど面白い。自己紹介するだけで面白い。わからないというか……真似できない

伊東はそれを聞き「そんなことはないでしょうけど……」と前置きをしつつ、自分の演技について語ります。

伊東「できれば台詞は変えないで間合いとかで面白くなればと思ってやってますけどね。間合いっていうのは自分で作るものじゃなくてお客さんの間合い。ある台詞を言った時、お客さんが頭の中でグルッと回して納得するまでがお客さんの間合い。納得する前に次の台詞を言ってしまうのは不親切だと思う。それを感じ取るのが喜劇役者のつとめだと思います」

さらに伊東は続けます。

伊東「一番怖いのは相手の台詞を覚えてしまうこと。覚えなきゃいけないんですけど覚えちゃうと知ってる顔になるんですよ、目が。その目はお客さんは嫌なんですよ。お客さんと同じ目になってなきゃいけないんです。今初めて聴くっていう。『覚えてるんだけど忘れる』っていう。変な言い方ですけどね」

映画秘宝EXモーレツ! アナーキーテレビ伝説』では最後にこう語っています。

伊東: 笑いというものは、その時代その時代を映しているものだと思うので、いまのバラエティ、そのほかの笑いを否定する気はさらさらありません。今後もB級の首位打者になるつもりでやっていく所存です(笑)。