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『ブラタモリ』のミラクルライン


ブラタモリ』のプロデューサーであり、『BSマンガ夜話』『東京カワイイ★TV』『天才てれびくん』『熱中時間〜忙中趣味あり〜』なども手がけたNHKのプロデューサー尾関憲一が上梓した『時代をつかむ!ブラブラ仕事術』は、これまでの経験を通して得た発想術や仕事術を綴ったもの。
特に「タモリさんをどうやって口説いたのか」など『ブラタモリ』の制作秘話が随所に書かれていてとても興味深い本だった。

ミラクルライン

タモリさんに昭和を揺るがした3億円事件の現場を歩いてもらう
尾関によるとそれが『ブラタモリ』の一番最初の企画案だった。


この企画案に対して部内で検討していくうちに「もう少し広く街をとらえて歩く番組ができないか?」と再考され、『タモリの時空ウォーカー』という仮題の番組企画がまとめられたそうだ。
本書ではその「提案書」(NHKで番組を提案する際に必ず必ず書く書類)の一部も公開している。

タレント、タモリ。彼が余暇に情熱を燃やしているのは古地図を持っての街歩き。多忙なスケジュールの合間を縫い、昨年『タモリのTOKYO坂道美学入門』を上梓。街の変貌への造詣の深さは専門家にもひけをとらない。
             (略)
番組ではタモリさんが街を歩きながら「土地の歴史の断層面」を発見。古地図をひもとき、現場を子細に観察し、何気ない「過去の痕跡」を見つけ出す。その痕跡や人との出会いを手掛かりに時空を一気にさかのぼると、そこには身近に歩いていた街の意外な過去や歴史があらわれてくるのだ。

最終的に『タモリの時空ウォーカー』は「タイトルは、なるべく説明している感じがなくてシンプルな言葉が良い」という尾関の頭の中に突然「降りて」きたという『ブラタモリ』に決まった。
しかし、このタイトル、当初はNHKの新番組は必ず審議の対象になる「番組審議会」では「新鮮味がない」などと否定的な意見も出たという。


パイロット版の『ブラタモリ』は24時台という時間帯では高視聴率を収めた。賛否両論の意見が寄せられる中、シリーズ化するべきという声はすぐに出たが、「深夜枠で短い尺にした方が、自由に演出できて面白いのでは?」という意見が主流だったようだ。
しかし、尾関は10時台の放送枠にこだわった。それはある「手応え」を感じたからだ。

一見「コア」とか「マニアック」とか、狭い世界に思われていた日本の文化が、気づかないうちにワールドワイドな支持を集めている傾向を感じていました。
             (略)
もはやマニアックと排除されるより、「なになに?」と、多くのみなさんがついてきてくれるのではないか?

それは尾関が『熱中時代』『東京カワイイTV』などを通じて体感していたことだった。

知ってる人は「自分だけわかっている」と感じてくれて、知らない人は「なになに?」と興味を持つ、ちょうどこのラインを狙えば、みんなが、「ちょっと特別なものを見ている」という気分でテレビを観てくれる

それを尾関は「ミラクルライン」と呼んでいるというが、『ブラタモリ』はまさにそのライン上をブラブラと歩いているのだ。

久保田アナの起用

ブラタモリ』への賛否両論の否の中に少なからず含まれていたのはタモリのパートナーとなった久保田アナへの苦言だったという。
あの女性アナウンサーは、なぜあんなにものを知らないのか?」「あんなに何も知らないのはタモリさんに失礼だ」というものだ。

番組開始前もタモリ以外の出演者については尾関も頭を悩ませていたという。
基本的に共演者を立て「省エネ司会」をする傾向が強いタモリタモリ本人にたくさん喋ってもらうには共演者にタレントを起用しないほうがいいと考えた。
では、どんなパートナーが最適かと考えた時、「女性アナウンサーで、場を仕切る感じのしない人」という案が浮上した。

タモリさんが得意な坂道や歴史など、マニアックな話が出てきそうな番組です。テレビを観ている人が置き去りにならないよう、なるべくシロウト目線で、視聴者の気持ちを代弁して「それはなんですか?」と質問できる立場のアナウンサーがいいと思ったのです。

尾関はアナウンス室に「なるべく不慣れでシロウトっぽい感じがするフレッシュな女性アナウンサー」という希望を伝えた。そこで白羽の矢が立ったのが久保田祐佳だった。
尾関は久保田アナに「タモリさんや専門の先生が話す内容について、わからないことがあったらどんどん質問してほしい」と指示した。
そしてもうひとつ、彼女に指示したことがある。

勉強しないでくれ

NHKのアナウンサーといえば最も番組の内容を把握し、進行をし、タイムキープまでしていくのが通常の役割。
それを一切「やらないでくれ」と指示したのだ。
いくら「勉強するな」と言われても、してしまいがちなのがNHKアナウンサー。バラエティ番組慣れしていない中で、事前に予習もできないとなると「妙な頑張り感」が出てしまう可能性も高かった。
しかし、久保田アナは「勇気を持って」「本当に(事前に)何もしなかった」のだ。

わからないことがあると、あいまいにうなずきながら質問し、面白い時は笑い、びっくりすると普通に驚き、まさにその年齢のひとりの女性としての「素」のリアクションをしてくれたのです。

その結果、番組に寄せられた意見が前述の「あの女性アナウンサーは、なぜあんなにものを知らないのか?」だった。
それは尾関の思惑どおりだった。
彼女がわからないことをわかっている視聴者にとっては「自分だけわかっている」感を感じさせてくれ、彼女と同じように分からない人とには「なになに?」という疑問を具体的に言葉にして聞いてくれ疑問を解消させてくれる。
まさに久保田アナの立っている位置こそが『ブラタモリ』にとっての「ミラクルライン」なのだ。



※「Yahoo!ニュース個人」に一部内容を変えて掲載しました。
▼「久保田アナは、なぜあんなにものを知らないのか?」『ブラタモリ』ができるまで

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