校閲の“越権”行為

校閲者は、文章や事実内容の客観的な誤りを指摘してくれるライターにとってとても重要な存在です。
時に「え、こんな細かいところまで?」と思ってしまう冷徹にも感じる指摘もあったりしますが、文章のクオリティを高めるためには欠かせないものです。
宮木あや子による校閲をテーマにした小説『校閲ガール』は『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』として日本テレビでドラマ化もされました。

2016年10月期放送のドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。主人公を演じたのは石原さとみ

僕は文藝春秋社の雑誌『CREA』に「妄想キャスティング」という連載を持っていました。マンガや小説が実写化したらとか、かつての名作をいまの俳優でやったらなど妄想していくものです。
その連載で僕は、あらゆるものがドラマの題材になっているのに「まだあまり手のつけられていない鉱脈といえば、バラエティ番組のドラマ化ではないか」として、伝説的クイズバラエティ『アメリカ横断ウルトラクイズ』のドラマ化を妄想しました(2018年6月号)。
長期間にわたり旅をしながら、ゴールまで勝ち進んでいくという物語性の高い番組なので、今までドラマ化されていないのが不思議なくらい。中でも最適なのが、ファンには語り草になっている1989年の「第13回」。準決勝の「ボルティモア」に残った個性あふれる4人は、“奇跡の4人”と呼ばれ、大激戦を繰り広げました」と、この「ボルティモアの4人」を妄想キャスティングしていったのです。
なかなかいい感じのキャスティングができたて「こんなドラマが実現すれば『スラムドッグ$ミリオネア』に匹敵するものができるはず!」と締めて、原稿を担当編集に送ったところ、編集から「校閲が申し訳ありません」という一文とともに校閲済ゲラが返ってきました。
そこには主人公・長戸勇人役の俳優を「ピッタリ。雰囲気も似てる」などと評したところを指しこう書かれていました。

同意しかねます

前述の通り校閲とは事実関係を客観的に確認するもの。主観的な指摘をするものではありません。編集者はだから謝っていたのですが、僕はそれを見て吹き出してしまいました。と同時に、嬉しい気持ちにもなりました。
いい悪いは別にしてそんな校閲までも思わず主観を入れてしまうような心を動かされるものだったのだと。

実際の校閲済ゲラ

そんなことが強く印象に残り、いつしか本当に『第13回ウルトラ』がドラマ化されたらどんな物語になるんだろうという妄想が止まらなくなりました。
だったら、自分で書いてみたい、と思い始めたのはそれから程なくしてからでした。

そんな折、以前から寄稿もしていたクイズ専門誌『QUIZ JAPAN』の編集長・大門弘樹さんから「Web版」ができるのでそこで連載をしてくれないかという依頼がありました。それはクイズ番組に関するコラムの依頼でしたが、僕は『第13回』の物語化を考えている旨を話したのです。
すると驚いたことに大門さんから「同じことを考えていました!」という思わぬ答えが返ってきたのです。
既に『第13回』王者・長戸勇人さんの協力も取り付けており、そのために資料等も集めていて、あとは書き手を探していたのだと。結果、『QUIZ JAPAN』と長戸勇人さんの全面協力という、考え得る最高の座組で「QUIZ JAPAN」Web版における連載「ボルティモア」が始まりました。

そしてそれを書籍化したものが、10月20日に発売される『史上最大の木曜日』です!

電Qさんによる最高の表紙イラスト!

ボルティモアへ」では、『第13回』の予選までで終わっていましたが、もちろん書籍では本編まで描かれています。そのため大幅に追記の上、構成も連載時とはまったく違うものになっており、別作品といっても過言ではないものになっているのではないかと思います。
この『史上最大の木曜日』の人物相関図を作ってみました。

※縦軸が年齢、横軸が所属になってます

長戸勇人、永田喜彰、秋利美記雄、田川憲治、加藤実、青木紀美江、稲川良夫、瀬間康仁……。
おそらく「クイズ」ファン以外にとってはほとんどが知らない人物ではないかと思います。
僕がこれまで書いてきた本の中でも世間的には飛び抜けて“地味”といえるかもしれません。けれど彼らは校閲同様「地味にスゴイ!」人たちばかり!
上の相関図の名前をよく知っているクイズマニアから、まったくクイズのことなどしらないという人まで胸躍るとてもドラマチックで極上の文化系青春群像劇が書けたと自負しています。

発売日は奇しくも『ウルトラクイズ』の『第1回』の初回が放送されたのと同じ10月20日、木曜日!『ウルトラクイズ』誕生45周年を迎えます。
早く来い来い木曜日!
是非、ご購読ください!!