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“博学の虚人”荒俣宏の諦め

ひと ブログ

荒俣さん自体は妖怪ですよ。人類の顔してるけどね、混じってるんですよ。人が気がつかないし、またそういうものが存在しないと思っているから、上手く紛れ込めるんです」
本人自体が妖怪ではないかと囁かれる水木しげるをして「妖怪」と呼ばれる男がいる。
荒俣宏である。
2月21日に放送された『オデッサの階段』で「荒俣宏のファンタジー」と題してその荒俣宏が特集されていた。
「人は好きなものだけに囲まれて生きると、どうなるのか?」と。

荒俣宏は作家、博物学者にして翻訳家。
小説『帝都物語』は350万部を越える大ベストセラーを記録。映画化もされた。『世界大博物図鑑』はサントリー学芸賞を受賞。
珍品収集家や妖怪評論家の顔も持っているが、その実体を僕らはまったく掴めない。

荒俣「変わっている所があるとしたら、ものすごく諦めが良いって言う事じゃないかと思いますね。小さい頃から人生は諦めであると。出世するとか、女にモテるかとか、そういう問題は小学生くらいの時に、もうすでにドロップしておりましたからね」

彼の人生観を決定づけたのは、子供の頃の体験だった。
幼い頃、貧乏だった彼の家族は二度夜逃げしなきければならなかった。それが彼にとってずっとトラウマとして続いたと自身が語っている。
そして彼の祖父がダンプカーに轢かれて身体がバラバラになって亡くなったことがさらに大きなトラウマとなった。
所詮、この世は仮の世。どうせすぐ死んじゃうんだから
それが荒俣の信念となった。
京極夏彦は言う。
「世の中なんて、そんなもんでしょ?っていう、それは諦めじゃないですか。もしかしたら荒俣さんの本質なのかもしれない」

荒俣「思い込んでいることっていうのが重要だと思うんですね。
私自身も思い込むことで、バーチャルにすることでこの世の中を上手く大過なくすごしてきたんじゃないかという気が致します。
子供の頃はとても貧乏でありました。
でもどうやって貧乏であることを受け入れたかっていうと、自分がもっと貧乏である状態を想像したんですね。妄想するんです。
たとえば病気で寝たまま動けない状態であったとしたら、今の貧乏で動ける状態のほうがはるかに幸せね。
17世紀、18世紀のヨーロッパ風に言えば楽観論とも言えるんですが。
より不幸なことを想像することによって、自分の不幸がなんでもないものだと感じることが出来る。
この思い込める力っていうのがひょっとすると幸せになれる大きな力だったんじゃないかって気がするんですね」

そんな彼が惹かれたのが幻想文学だった。編集者の大石範子は言う。

大石「幸せじゃなかったとか、幸せなんて僕にはないんだとか、ずーっととにかく言ってました。幻想文学っていうのは、端から幻想ですから、現実に縛られずに言える余地があるという所で一息つける部分があったんじゃないかなっていう気はするんですけれど」


翻訳家としても多くの本を出版する荒俣宏
彼は、中学3年生のときに当時ハマっていた『世界恐怖小説全集』の翻訳家、平井呈一に手紙を書いた。
「僕は一生、お化けの研究がしたい。弟子にしてください」と。
それに対し平井は「非常に珍しい子だ、弟子にしてあげよう」と受け入れると「欧米の方がお化けの研究が進んでいるから洋書を読め」と勧めると、荒俣は英語を猛勉強する。
お化けの研究が、翻訳家になるきっかけだった。

荒俣宏「(平井に)『これやるんだったら、普通の幸福は諦めなさい。結婚するとか恋愛するとかって言うのは無理よ』って言う風に言われました。でも私恋愛するよりはオバケにあった方が良いんで『わかりました。こっちの方を選びます』という返事をした事を覚えています」


魚好きでもある荒俣は、慶應大学を卒業後、現在のマルハニチロである日魯漁業に就職。
コンピューターのプログラマーとして9年間のサラリーマン生活を送ったが退社。

荒俣「若い人々が関心を持つような事は、積極的にやらないようにしていた。貧乏でしたね。なにしろ服は2着くらいしか持ってませんでしたからね。コンピューターの技術を持っていますんで、そっちの方に転身しようと思ったんですが、3ヶ月間の職探しの間に自由に起きたり寝たりできるっていう事の素晴らしさに感動をし、まあ来年勤めれば良いかというのが延び延びになって。今65歳ですけれども、うちの91歳の母親には未だに『ところで今年は就職するんだろうね』といつも言われています」

荒俣宏の名を一躍メジャーにしたのが『帝都物語』だ。
それを書く以前、荒俣は工作舎というマニアックな出版社で様々な本を出していた。そこで、その荒俣の博識を一冊の小説にしたらスゴいものが出来るんじゃないか、と声を掛けられたのが執筆のきっかけだった
荒俣は以前から、今でも平将門が恐れられていることに興味を抱いていた。「周りの企業が将門の首塚には最大の敬意を今だに払っているという話を聞いて、現実を超えファンタジーを超えるファンタジーが、今現実にあるんだ」と。それを基に着想を得たのが『帝都物語』だという。
日本SF大賞も受賞した『帝都物語』。荒俣は、このシリーズで億を越える印税を手にし、そのほとんどを本につぎ込んだ。
自宅には現在3〜4000、5000冊もの本で溢れ、それでも足りず、自宅に収まりきれない本は、老舗の古書店「雄松堂」に預けている。

荒俣「人間よりは本の方が絶対強いと思っています。人間は残らないけど物語は残ります。そういう意味では人間が作り出した中で、最も強い発明ではないかな、と思うくらいですね」


幻想と現実の境目について問われた荒俣はこう答えている。

荒俣「僕の考えですが。境目をきっちりと分類するというのは恐らく不可能だと思います。この2つがセットになっているからこそ、人間って今の文明や自然界の中で暮らしている事が出来ると思う。こんな物を分けろという方が幻想に囚われているんじゃないかという風に思います」

そして「人魚はいると思いますか?」という問いに対して。

荒俣「居る居ないっていうのは、私がそもそも疑問を持っている最大のポイントなんだな。人間にとって居るかどうかっていうのは、科学的にあるいは客観的に存在するかどうかって言うのとは、微妙に違うと思うんですね。もう名前が付いているものは、我々人間にとってみんな存在すると認定した方がいいんじゃないかと思ってるんですね」

幼い頃、「この世に幸せという幻想は存在しない」と悟った荒俣宏
しかしそれこそが幻想だ。
水木しげるは言う。
もう存在してることが幸せじゃないですか? 荒俣さんにとっては」

荒俣「諦めって実は最大の思い込みで『幸せが存在しない』という思い込みは最強の自己暗示だった気がするなぁ、今となっては」

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