くだらないの中に

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水曜深夜は戦いだった。
深夜2時をすぎた頃になると、僕はそわそわし始め、「まだ早いかな?」と思いながらも待ちきれず出かける。
行き先は近所のコンビニ。
一刻も早く『週刊プロレス』を確認したかったのだ。
週刊プロレス』は当時木曜日発売。それがそのコンビニに搬入されるのが大抵水曜深夜(つまり木曜早朝)。それを店員が棚に並べるのが2時過ぎ。その頃合いを狙っていたのだ。

けれど、コンビニの店員は忙しい。僕が思い描いたとおりの時間に棚に並べてくれるとは限らない。早く並べてくれないかなと店内を伺いながらその時を待つ。僕と店員さんとの戦いだったのだ。店員さんにしてみれば、ただただ迷惑な客だっただろう。
そんなのを待つまでもなく、早く買える状態にしてくれと店員さんに言えばいいのだが、それを絶対に買うのならお願いすることもできたが、必ずしも買うわけではなかったから言いにくい。
なぜなら、当時僕が読みたかったのは「パンクラス」という団体の記事だけ*1パンクラスは頻繁に興行をやるわけではなかったので、まったく彼らに関する記事が載っていないことも少なくない。貧乏大学生だった僕には、載っていない号を買うほど財布に余裕はなかった。だから、まずは中身を確認したかったのだ。

 

もうすぐ棚に並ぶだろうという頃を見計らってコンビニに入る。だが、まだ搬入された袋に入ったまま。
でもきっともうすぐだからと思い、少しの時間、店内の商品を見ながら時間を潰す。
そんなときだ。
店内の放送から、「バカでえ~」とバカ笑いする声が聴こえてきた。
きっと当時もいまも、コンビニには決められた店内放送があったはずだ。だけど深夜に一人で任されているアルバイト。店員さんは放送くらい自由にしてもいいだろうと思ったのだろう。そして彼はきっと深夜ラジオのリスナーだったのだ。
だから水曜深夜は決まってその放送を店内に流しながら仕事をしていた。

最初は、どこかで聞いたことがあるなと思いつつ、誰が話しているのかは分からなかった。
2人は「ラビー」とか「ムッくん」とか愛称で呼び合っているからピンとこなかったのだ。
それが関根勤さんと小堺一機さんだと分かるのはそれから何週目かの頃だ。
そう、店内放送に流れていたのは、『水曜UP'S』時代の『コサキンDEワァオ!』だったのだ。
僕はいつしか『週刊プロレス』よりも、そちらの放送の声を聴くのが楽しみになっていった。
それ以来、コンビニに行く時間の前から、ラジオで彼らの放送を聴くようになり、すっかり僕は大学生時代、「コサキンリスナー」になったのだ。

 

星野源さんは、中学3年生から高校の3年間、コサキンリスナーだったという。
彼はそのラジオを「『くだらなさ』の英才教育」だったと評している。
僕と、星野さんは3学年違い。つまり、長い歴史のあるコサキンのラジオのうち、ほとんど同時期の放送を聴いていたことになる。
ところで、僕が初めてインタビュアーとして仕事をした相手は星野源さんだった(『TV Bros.』15年7月1日発売号掲載)。

それまで、福島県在住だったということを“言い訳”にそうした取材仕事はしてこなかったが、相手が星野さんとあれば断ったら一生後悔しそうで(ファンだったので)、お引き受けした。
また、その頃、僕はこのまま福島で書き続けるか、東京に出てくるか迷っている最中だった。福島で書いていても先細りしてしまうのではないか。けれど、東京に行けばやりたくない仕事や自信がない仕事もやらなくてはならなくなってしまうかもしれない。その一歩が踏み出せないでいるときだった。

星野さんのインタビューは星野さんが僕の拙い質問の意図を最大限汲み取ってもらったこともあって、自分でもいい記事になったと思った。
そして、この星野源さんとの仕事を通して僕は決心がついた。
上京することに決めたのだ。その年の暮れ、僕は上京。それからは、福島に住んでいたときにはやれなかった仕事をたくさんいただいた。今では本当に上京して良かったと思っている。

 

そして、上京から1年。思わぬ仕事の依頼が舞い込んだ。
それが、星野源さんと、関根勤さん&小堺一機さん(つまりコサキン)との鼎談の司会と構成だ。
上京後1年の締めくくりに、その上京を決心させてくれた星野源さんとの仕事。これ以上嬉しいものはなかった。
しかも、その鼎談する相手は、コサキン。星野さんとほぼ同時期に僕も彼らから「くだらなさの英才教育」を受けた一人なのだ。
なんなんだ、この偶然は!?
なんなんだ、この僥倖は!?
僕はその星のめぐり合わせに震えながら、3人の話に聞き入った。

コサキンの2人はいつもと変わらぬくだらないバカ話をして僕らを笑わせてくれた。
芸能人の先輩として星野さんに語る真面目な話とそこに挟み込まれるバカ話。それらがまったくの同価値としてそこにあった。
くだらないの中に愛が溢れた最高に幸せな空間だった。
イムリミットが告げられ、3人が名残惜しそうに鼎談を終えると、周りにいたスタッフから、大きな拍手が巻き起こった。
あまりにも贅沢で貴重な鼎談だった。

というわけでこの鼎談の記事が、星野源イヤーブック『YELLOW MAGAZINE 2016-2017』に収録されています。

星野源自身の言葉で存分に語るロングインタビューを始め、星野源がファンであることを公言している“コサキン”こと小堺一機さん、関根勤さんとの超豪華鼎談が実現。

その他にも、この本でしか見られない、【星野源 × 奥山由之】撮り下ろしフォトストーリーや、アルバム『YELLOW DANCER』全曲徹底解説、星野源をよく知る著名人からのコメントなど、全128ページに渡って、音楽家・星野源の2016年を、様々な角度から切り取った超豪華な1冊。

A!SMART」の通販ほか、各ライブ、フェス会場にて販売中です。是非!

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*1:当時僕は完全な“パンクラス信者”だった。パンクラスはプロレスから派生したいわゆる総合格闘技団体。他のプロレス団体とは一線を画していた。僕が東京の大学に進学したのも、パンクラス修斗といった総合格闘技を生観戦したいという一心だった