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全身全霊で伝えるということ 〜宮本浩次のルール〜

5月12日に放送された『私の10のルール』のゲストはエレファントカシマシ宮本浩次だった。
この番組は、公式HPによると以下のような番組。

誰もが自分自身に課しているルール。
私らしく生きていくのに必要な私だけのルール。
このルールがなくても生きていくことはできる。
しかし、このいくつものルールが今の「私」を作っている。


「ルール」とは自分自身を組み立てている1ピースである、というテーマのもと、「10のルール」にまつわる、10のVTRを手がかりに1人の人間を裸にしていくオムニバススタイルのドキュメンタリー番組。


名言が続出したこの回で、まず一つ目のルールとして宮本が披露したルールは『白と黒以外着ない』。
「これは僕の最低限の主張」だという。

それは大人になったんだから身なりのこととかも、それは憧れはあるんです。
でもなかなかそこに到達できないというか、それはなぜなら自分の歌を精一杯歌って、そして自分たちの表現をちゃんと形にするっていう、それ自体すごく意味があるんですね。

宮本にももちろん様々なやりたいこと、憧れがある。それは例えば「正装してレストランで食事する」というようなことだという。

でも僕らはそんなに時間があるわけがなくて、「いつか、いつか」っていつもそういうふうに思って生きてきたんだけど、いっぱいいっぱい憧れがあってさ、でも、そんなの一個一個やってくと、そんなの間に合わないってことに気づいたの。
          (略)
でも、その(食事をしたりして)くつろぐのは、もしかすると一曲いい曲が出来てみんなに届いた時の方が、もっとくつろぎが大きかったらさ、そっちのくつろぎを採るんだよ。
僕は、歌を歌って、みんなにその歌が届いたことが一番のごちそうだってことに気づいたんだよ。

この番組の中で宮本は頻繁に「届く」とか「伝える」という言葉を口にしていた。
というよりも、彼の「10のルール」のほとんどが、いかに人に「伝える」か、「届ける」かに基づいたものだった。


それは、サインを書く、という事についても徹底されており『サインは楷書』というルールも持っている。

バァーって書いてあって分かんないと、ちょっとこうがっかりっていうか、まあその、僕は、そうだったもんですから……。それでなんか楷書で書くようにしてるんですよ。
で、なるべくその歌詞とかもそうなんですけど、分かんないことはなるべく書かないわけですよね。
ま、下手なんですけど、しっかり書いたほうが伝わるっていうのもアレですけど、割とそういうふうには思っている、全般的にですけど。そういうところはあるようです。


僕らがテレビで目にする宮本の印象は「我が道を行く」というものではないかと思う。しかし、一方で音楽番組などでインタビューなどに答える宮本の髪をかきむしりながら、一生懸命全身を使いながら身振り手振りを駆使しながらしゃべる姿はひたむきで生真面目な印象を受ける。

ウソは言わないようにしようっていうのはあるんですよ。
でも一番、アレなのは生番組とかの中で、その、まとめるのがなかなか……、どれを言ったらいいんだろうっていうのを、すごく一番考えちゃうんですよね。
だから、そのラジオとかテレビとか取材とかのときは、もう、その、相手との距離もさることながら、その向こうにいる人にどういう風に言うと一番分かりやすいのかなっていうのを、一応考えるようにはしてるんですよ。
結果的に全然、錯綜してる事が多いようなんですけど、結果的にね。

このような姿、態度は個人的に太田光とイメージが被る。実はかつてこの二人は対談している。
それは1999年に出版された太田光の著書「カラス」に収録されている。
その中で太田自身も以下のように述べている。

宮本さんのしゃべりのテンションと同じなんですよ。俺、テレビの本番って、どうにかして伝えようとするから、自然と身振りもついちゃうんです。だから、宮本さんのあの手振りもすごくわかるんです。

2人とも自分の思いを伝えようとするあまり、支離滅裂になったり意味不明になったり言葉が出なくなってしまう。しかし、その言葉に出来ない様で僕らには十分、彼らの思いが伝わってくる。


そして、少し意外*1でもあり、逆にとても納得のいく気もする『堂々とヒットチャートを気にする』というルールがある。

チャートが上に行くといいなぁと思ってて。
すごい、知ってもらいたいんでしょうね、自分がしっかりやったものを、やっぱり一人でも多くの人に。
ま、伝えたいんだろうね、最終的にはそれを。
あらゆるメッセージというか、生きている表現っていうのは、僕は「歌係」だから、それをやっぱり歌で、答えを歌うっていうことだとは思うんですけどね。
それをやっぱり正しいって自分で、正しいっていうか、自分も安心したいじゃん。
こんなに嬉しいことはないですよ、支持されるっていうのは。嬉しいですよ、そりゃ。
気になりますね、やっぱり。はい。
丁寧に作って、丁寧にプロモーションして、丁寧にコンサートやって、繰り返しだ。

こういう「一人でも多くの人に」とか「ヒットチャート」というド真ん中を意識していくことを隠さないその姿勢もまた太田光にも共通するものだ。例えば「クイック・ジャパン (Vol.76)」のインタビューではこのように語っている。

タモリ倶楽部』はホントに楽しいし、いまでも出たいと思ってて。たとえばみうらじゅんさんのネタなんか俺は大好きなんだけど、あれはでもやっぱり深夜になるじゃないですか。だけど俺、絶対にあれをゴールデンタイムのド真ん中に持っていきたいなって思っちゃうんですよ。こんなに面白いんだから、一般的にもっとみんながこれで笑う状況になったほうが絶対面白いのにって。
          (略)
だから、いまだにその棲み分けみたいなものがわかってないんだと思う。「深夜だからいいんだよな」ってものを、俺は「え? でも、面白きゃゴールデンでやったほうがいいじゃん!」って思っちゃうから。

結局、爆笑問題エレファントカシマシも大きな挫折を経験しながらも、自分たちの核となるスタイルを大きく変えることなくゴールデンやヒットチャートの常連になった。

ヒット曲があったりとか、全然売れてなかったりとか、そういうひとつのドキュメントっていうか、上り下りのエブリデイがきっとこう、また、きっと面白かったりするのかもしれないけど、でも、それはやっぱりラッキーですよね、仲間と一緒に。


多くの人にやっぱり音楽を聴いてほしいっていうのも、結局一人でも多くの仲間を作りたいわけだよ、きっと。
そういう人たちと共有している喜怒哀楽の答えを形にするから、皆が共鳴してくれるっていうことだと思います。はい。

宮本浩次の最後のルールはシンプルで、なおかつとても力強いものだ。

届け!! という一心で歌う。

とってもいい言葉だと思う。

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*1:一般的にエレカシはヒットチャートなんか気にしない、そんなものは邪道だ、みたいに考えてそうなイメージがあるような気がする。