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談志の言葉

立川談春の著書「赤めだか」が、落語ファンのみならず必読の面白さであることは、ちょっとネット界隈を見まわしただけでもその評判を知ることができるし、「2008年講談社エッセイ賞」や「『本の雑誌』2008年上半期エンターテイメントベスト1」などの受賞もそれを裏付けている。
この本の面白さは、様々ありすぎてそれを伝えるのは、自分は力量不足なので、本書に登場する師匠・立川談志の言葉をほんの一部だが引用したい。
その含蓄のある言葉の数々は、落語論のみならず教育論としても一級品だ。

「学校というところは思い出作りには最適な場所だ。同級生がいて遊び場がある。だが勉強は何処でもできる。俺の側にいる方が勉強になる。学校では会えないような一流の人に会える。学歴なんぞ気にしなくていい」

「君が今持っている情熱は尊いものなんだ。大人はよく考えろと云うだろうが自分の人生を決断する、それも十七才でだ。これは立派だ。断ることは簡単だが、俺もその想いを持って小さんに入門した。小さんは引き受けてくれた。感謝している。経験者だからよくわかるが、君に落語家をあきらめなさいとは俺には云えんのだ。加えて俺は後進を育てる義務がある。自分が育ててもらった以上、僕も弟子を育てにゃならんのですよ」

「前座の間はな、どうやったら俺が喜ぶか、それだけ考えてろ。患うほど気を遣え。お前は俺に惚れて落語家になったんだろう。本気で惚れてる相手なら死ぬ気で尽くせ。サシでつきあって相手を喜ばせられないような奴が何百人という客を満足させられるわけがねェだろう」

「よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教える方に理論がないからそういいいいかげんなことを云うんだ」

「師匠ってのは、誉めてやるぐらいしか弟子にしてやることはないのかもしれん」

「型ができてない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになる。(略)結論を云えば型をつくるには稽古しかないんだ」

「いいか、俺はお前を否定しているわけではない。進歩は認めてやる。進歩しているからこそ、チェックするポイントが増えるんだ」

「己が努力、行動を起こさず対象となる人間の弱味を口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。(略)現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」

「俺を抜いた、不要だと感じた奴は師匠だと思わんでいい。呼ぶ必要もない。形式は優先しないのです。俺にヨイショする暇があるのなら本の一冊でも読め、映画の一本も観ろ」

「儀式を優先する生き方を是とする心情は俺の中にはないんです」


なによりこの本が面白いのは、このような確かな哲学を持っていながら、立川談志が「揺らぐ男」として描かれていることだ。
これだけ素晴らしい言葉を放ちながら、次の日にはまったく別のことを言ったりする。
それこそ、魅惑的な落語の世界そのものではないか!

赤めだか
赤めだか
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立川 談春
扶桑社
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