2010年を振り返る(書籍編)

テレビブック・オブ・ザ・イヤー2010

2010年に出版され、僕が読んだ中でもっとも感銘を受けたテレビ関連本は浅草キッドの『キッドのもと』でした。
● 『キッドのもと』(浅草キッド

キッドのもと
キッドのもと
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浅草キッド
学習研究社
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書籍では「ルポライター芸人」として、今まで、一貫して他人の魅力を伝えてきた浅草キッド。そんな二人がついに自身の人生を水道橋博士玉袋筋太郎がそれぞれの視点で振り返ったセルフ・ルポルタージュ。膨大な著作を持つ博士の筆力はもとより、玉ちゃんの語りかけるような文章が熱くて優しい。
これは愛についての物語です。それは師匠であるビートたけしへ、あるいは相方への愛であり、親への、子への、芸人への、漫才への赤裸々な愛の告白なのです。
僕はこの本を読むのに普通の倍以上の時間がかかりました。それは、各章ごと読み進めるごとに涙が止まらなくなるからです。
各章それぞれがまた1冊の本になるくらい濃密さ。特に「フランス座修行時代」の物語は、美しくも残酷で切ない芸人物語として独立した本、映像化などをしてほしい珠玉のエピソードの連発です。


以下、ほぼ順不同で。
● 『オードリーの小声トーク』(オードリー)

ほんの数年前までテレビ出演はもちろん、ライブにすら満足に出ることが難しかったオードリー。その現状を打破するために彼らが考えたのは、春日の自宅でトークライブをすることでした。その模様を撮って、自分たちを見直そうと模索していたのです。たった10人が定員のライブ。その10人すら集まらない時もあったといいます。結果、彼らはこのライブであの「ズレ漫才」を生み出すきっかけを掴むことになります。そんな自宅ライブ「小声トーク」を起こしたのが本書です。
ここには芸人として葛藤する二人の瑞々しい感情が溢れています。
出口の見えない六畳一間のむつみ荘の一室でひたすら語り合い、笑い合う二人。意外なほど悲壮感はありません。しかし、絶望的なほど希望もないのです。しかし、二人はそれすらも笑い飛ばすのです。
この本を読んだ人なら誰もが、若林による「あとがき」の切実で鋭利な言葉が胸に突き刺さるでしょう。
お笑い芸人としての病理とその魅力が詰まった本です。


● 『年齢学序説』(博多大吉)

年齢学序説
年齢学序説
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博多 大吉
幻冬舎
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大吉は「選ばれし者は26歳の時に時代を掴む」という自らの仮説をもとに、つぶさに芸人を始め、著名人から漫画の登場人物にいたるまで、それぞれの「26歳」を調べ上げ、その仮説を証明して見せます。
その論は確かに説得力を持って語られるものの、当然ながらそれはこじつけのトンデモ学説であり、この論を主張することが本書の主目的でないことは自明のことです。
大吉の筆は論文の形式を保ちつつも、偉人伝になり、バラエティやスポーツの歴史を記し、芸人、あるいはお笑い芸を論じます。
そして遂に、博多大吉「26歳」の時を語りだすのです。
そこで読者である僕らは気づくのです。彼が無為に過ごすしかなかった「26歳」の1年間の意味をなんとか模索し続けた苦悩の深さを。
参考:博多大吉が見上げる世界


● 『splash!!』(vol.3)

splash!!Vol.3
splash!!Vol.3
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山里 亮太 オードリー 田中卓志 潜在異色
双葉社
売り上げランキング: 29794

毎号お笑いファン垂涎の企画で読み応え抜群の『splash!!』。その第3号は『潜在異色』特集。テレビで自分の実力を最大限に発揮できないという危機感から生まれた小さなライブが次第にムーブメントを作り出し、ついにはテレビでレギュラー放送されるまでに至りました。特集では「たりないふたり」山里&若林を始めとしたそのメンバーへの濃厚なインタビュー。特集以外では『エンタの神様』のプロデューサー五味一男らのインタビューで、その番組が残した功罪を検証したり、と濃密で意義深いものです。ちなみに僕も片隅にミニコラムを寄せています。


● 『東京ポッド許可局』(マキタスポーツプチ鹿島サンキュータツオ+みち)

「屁理屈はスポーツだ」をキャッチフレーズにマキタスポーツら芸人たちが、お笑いのこと、テレビのこと、あるいはお菓子のことなどなどを徹底的に語り尽すポッドキャスト「東京ポッド許可局」の書籍化。
圧倒的に面白い「見立て」を元に3人で行き当たりばったりにしゃべりながら、時に強引に時に奇跡的な論を展開させていく。まさに理論の誕生する瞬間に立ち会う興奮が楽しめるのがこのポッドキャストの魅力だと思います。
その初期の名作が過剰な脚注とともに文字に起こされています。名言だらけで、今後お笑いを語る上で下敷きになるような見方を示している本です。


● 『板尾日記5』(板尾創路

板尾日記5
板尾日記5
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板尾 創路
リトル・モア
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「怖い、助けてほしい」
彼に信じがたい不幸が起ったあの日を含む日記。1日1日の文量はその日の以前以後もそれほど変わらないのに、その書かなさ具合の微妙な変化が深い悲しみを際立たせます。板尾さんの戸惑いが、僕らを打ちのめし、最後の言葉が僕らを奮い立たせてくれます。


● 『のはなしさん』(伊集院光

のはなしさん
のはなしさん
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伊集院 光
宝島社
売り上げランキング: 1800

いまや、「文章の人」としての地位も揺るぎないものにした伊集院光のエッセイ第3弾。奥さんへの純愛を綴った最初の一遍から、硬軟自在で様々な視点と、「物事を考え過ぎる不幸と幸福を与えてくれる(by「TV Bros.」)」伊集院流の理屈で世界の見方を歪ませてくれます。


● 『バンド臨終図巻』(速水健朗円堂都司昭栗原裕一郎、大山くまお、成松哲)

バンド臨終図巻
バンド臨終図巻
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速水健朗 円堂都司昭 栗原裕一郎
大山くまお 成松哲
河出書房新社
売り上げランキング: 162948

古今東西200バンドの解散の経緯を淡々と綴った本書。その距離感が逆に人間味を浮き彫りにして、驚きと哀しみに満ちた名著です。人間のどうしようもなさ、そして、大きな組織・社会に属することによって抗えない波に飲み込まれ、変わらざる負えなかった人たちの悲哀と葛藤が簡潔な文章から胸に迫ってくるのです。

● 『クイック・ジャパン』(Vol.88)

巻頭特集は「ウッチャンナンチャン」。彼らの20,000字インタビューをメインに、出川&勝俣による「ウンナン欠席裁判」や彼らに縁深い人達へのインタビュー、そしてウンナンコント番組史まで盛りだくさん。
そして第2特集「いま、テレビは。」では『ブラタモリ』スタッフ座談会、マツコ・デラックス×大根仁の対談、山崎弘也インタビュー、加地テレビ朝日プロデューサー×伊藤テレビ東京プロデューサー対談等々てんこ盛り。
さらに映画『ドラえもん』も特集。武田鉄矢が主題歌について語ってます。
濃いです!


● 『マボロシの鳥』(太田光

マボロシの鳥
マボロシの鳥
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太田 光
新潮社
売り上げランキング: 326

芸人界随一の著作数を誇る太田光による待望の処女小説集。
太田本人同様の繊細で愛に満ちた文章が胸を打ちます。絶望的に厄介で面倒なこの世界にそれでもまっとうな愛と信念で真っ向から立ち向かう、いい意味で太田の青臭い魅力があふれる小説集だと思います。