マツコ・デラックスの武装と幸福論

マツコ・デラックスの快進撃が止まらない。
昨年下半期以降、初の冠番組『マツコの部屋』を皮切りに、『しゃべくり007』『ガキの使い』『めちゃイケ』をはじめとして数々の番組にゲスト出演。そのいずれもで爪痕を残していった。
その勢いは今年に入っても留まることを知らず、最近では『レッドシアター』『ぐるナイ』「おもしろ荘」にも重要な役どころで出演を果たした。
いわば、「バカに見つかった」状態のマツコ。
TVっ子垂涎の『クイック・ジャパン88』でも、ロングインタビュー*1を受けている。

大根: テレビを作る人たちって意外と情報が遅いから、いまようやくマツコさんの面白さに気付いて一斉に群がってるのが、観ていてもよくわかるんです。そうやって自分が消費されることへの危機感はありますか?
マツコ: 一昨年(08年)はね、ほとんどのオファーを断ってたの。でもレギュラー仕事をやるようになって事務所のお世話になったのね。(略) でもこのままいくとやべぇなっていうのはすごくある。テレビ出るのって魂を売ることだよ。

マツコは現在の自分の置かれた状況を誰よりも冷静に見つめている。

私は(本職とは)違うわよ。通りすがりでやってるんだから。何のポリシーも無いわよ。

と、自嘲気味に語るが、そのスタンスこそ、彼女が時間帯や番組の特性を理解し、巧みに見せ方や振る舞いを変えつつも、根っこの軸は一切ブレない秘訣ではないだろうか。

マツコ: それ(ドリフのような差別的な笑い)が無いからいまのテレビはつまらなくなったのよ。笑いって差別でしょ? 私が自分で常に承知しているのは「私は差別されているから笑われてるんだ」ってことなの。おそらくみなさんは自覚してないだろうけど「コイツは私たちと違う人」って思われてるのが私にはわかるし。やっぱオカマって最後は「お前はこっちじゃない」って言われる性別だからね。ましてやこんなおかしな格好して太ってるわけで、異形の極致みたいな存在だもん(笑)。
大根: でもやってるうちに制作サイドが慣れてきますからね。世間にも少しずつ受け入れられてきたりとか。
マツコ: そう!それがダメ。私は自分がやってることすべてが「褒められたもんじゃねえ」って思いながら生きてんの。いまのメディアの作り手って、ちょっとチヤホヤされたりとか、部数が伸びたり視聴率が良くなったり、興行成績が良くなったりするだけで、さも世の中から認められたような感覚を持ってしまいがちじゃない? それって一番愚かだし滑稽だし、何か笑っちゃうんだよね。バーカって思っちゃうの。
大根: (笑)
マツコ: 『マツコの部屋』はズルくやってるわよ。まともにメインストリームの人間とは勝負してねえぞって、最初から白旗を揚げてるの。それで評価されたからって、真ん中でいろんな制約と戦ってる人たちに勝ったと思ったらダメよ。だけど、そのズルいものを使ってメインストリームに勝ったらすごいよね。ズルい人たちが真っ向から真剣勝負したら、本当に価値のあるものができるんだと思う。


マツコは、20代の頃、人生を劇的に変えようと肉体労働に就職。
しかし、数年でやはり挫折し、ゲイ雑誌『Badi』の編集をはじめる。
それがきっかけで、中村うさぎに拾われ、コラムニストへ転身した。
その中村うさぎとは、以前『ボクらの時代』に、株式トレーダーの若林史江とともに出演している。
マツコ、中村と比べると、世代的にも若く、見識も浅い若林が、浅はかな発言をしているが、それがかえって二人の感情をうまい具合に刺激し、とても面白い鼎談となっていた。

中村: 人から言われた事ないや、あんた以外の人から。陰では言われてるんだろうけど面と向かって「バケモノ」なんて言うのはあんたくらいのものよ。
マツコ: あ、そう? 私結構いろんな人から「バケモノ」的なこと言われるんだけど。
中村: それはビジュアル的な要素も含めてね。
マツコ: なんかさぁ、特にテレビ出て感じるんだけど、世の中の人って意外とバカなこと平気でできるんだなって思う。
中村: え、たとえば?
マツコ: デブに「デブ」とかさ、バケモノに「バケモノ」って言うことがどれだけ簡単なことかっていうのはわかるじゃない? みんな。でも、それを避けて笑いをとったりとかさ、話をふくらませたりすることがさ、カッコいいことじゃないのかな?
若林: だからさ、リスペクトされてるじゃない、世の中から。
マツコ: 誰からよ?
若林: たとえば、「マツコさんのファンです」とか(ファンが)来ても、なんでそんなに卑屈になるの? って感じがする。
マツコ:  私は誰も信用してないからよ。
若林: 卑屈でしょ、それは。
マツコ: どうしてよぉ? あんた何?「若林さんのファンなんですぅ」って言ってきたら「ありがとおぉ!」(と抱きつく)ってやるの?
若林: うん。
マツコ: バッカじゃない? 私そんなこと出来ない! 恥ずかしくて。
若林: え、なんで違う! 別にそんなことはしなくても「ありがとうございます」って言えばいいじゃん。なにをわざわざファンだって言われてるのに「どうせバカにしてるでしょ」とかさ……。
マツコ: あたしのことを好きって言ってるような人はそっちのほうが喜ぶのよ! ホンット、浅知恵ね! あたしに普通に「どーもありがとー」って言われて喜ぶ?
若林: 違っ、私が言ってるのは、画面上でそれをいうのは確かに面白いよ。マツコさんにそういうふうに言ってくる人はそういうふうにされたいと思うよ。でもさ、一旦控え室に戻った後もさ、負のオーラ全開で卑屈じゃない。
中村: 負のオーラっていうけど、そこにマツコのプライドがあるんだと思う
マツコ: (満足そうに)さすが!
中村: じゃあ、マツコさんのプライドについて語ってもらいましょう。
マツコ: えーー、それをテレビで話ちゃうのってちがうと思うんだよ。そこは奥ゆかしさじゃん。
中村: そんな、ファンですって言われて、「あ、どぉーも」なんて言わない背骨みたいのがマツコを支えてるの。
マツコ: 「あんたに本買ってくれなんて頼んだ覚えはないわよ!」っていうスタンスは常に崩したくないの! ホントはありがたいと思ってるよ。でも、それをさぁ、、、あー、言っちゃった。嫌なのよ。こんなこと言うのが。
中村: 泣きな。
マツコ: (爆笑) この人ねえ、すぐあたしを泣かそうとするのよ!
若林: え? 泣いたことあるの?
マツコ: そりゃ、あるわよ。
中村: 女装について語りながらさ、急に「あたしこんなこと話したくないのに、なんであんたあたしにこんなこと話させたのよ!」とか言いいながら泣き出して(笑)。

マツコは『はなまるマーケット』に出演した際、その女装を「パートタイム女装」だと明かしている。
マツコにとっての女装とはどういうものなのだろうか。

マツコ: たぶん自分のことがホントに好きじゃないんだよね。好きっていうのは「全面的に許す」っていう意味の好きじゃなくてあんたみたいに人に明け透けに見せることも、恐怖に感じてるんだと思うのよ。
中村: じゃあ、その女装は武装なの?
マツコ: うーーん、両方。すごい安心するし、なんかね、たぶんホントの部分ていうのは、親の問題が解決しないといかないんだよね、私はもう……、ホントに親がすべてなんだよね、自分の。
中村: 特に母親ね?
マツコ: うん。こんなことしておいて今更いうのなんだけどさ、私まだ親に全部言ってないよよ、なにしてますって。
若林: え? テレビとか観て分かってないの?
マツコ: たぶん、覚悟はしてのよ。
中村: マツコ・デラックスが自分の息子だって(笑)。
マツコ: でもさ、ホントうちの親って素晴らしいなって思うんだけど、絶対に言わないんだよね。親と子の関係ってなんか、すべて分かろうとしすぎな感じがするんだよ。絶対に言えない部分っていうのは親にもあっていいし、そこは親子だろうがなんだろうがさ、そのデリカシーを守り続けることがさ、人間だと思うのね。だからそういう意味で言えばさ、うちの両親っていうのはホンットによく出来た両親だと思う。だから、それに甘えきってるわよ、今は。で、たぶん、特に母親が死んだらさ、私はきっと一時期半狂乱になるんだけど、それが過ぎたときに、もしかしたらもう女装しないでテレビに出たりとかする時が来る、可能性もある。
中村: 親が死なないと、自分の死に様も決められんということか。
マツコ: だね。


よく性別を超えた存在と、体型が似ていることで「ナンシー関の再来」などと言われるマツコ。しかし、マツコは、ナンシーの批評を「男目線のツッコミ」だと看破する。自分は真逆で「女のツッコミ」である、と。

やっぱ世の中って男か女かでできてるじゃない? だから私の意見を怒らずに聞いてもらえているのは、私がオカマっていう部外者だからだと思う。「アンタ、ブスね」って、女が女に言ったらシャレになんないよ。結局は仲間に入れてもらえないから許されるんであって、それはすごくありがたいと同時に、とても悲しいことでもあるわよね。(『QJ』より)

どこにも属さないからこそ、何を言っても許される自由さと引き換えに被る、どこからも仲間に入れてもらえない悲しみは、僕らが想像している以上に深いのではないだろうか。無防備では耐えられない。

昔はいつか自分も幸せになれるって信じてたの。だから頑張れたの。いまのこの状況がわかってたら、あんなに頑張んなかった。無知蒙昧って素敵ね。
無知蒙昧じゃないと人間って頑張れないのよ。だから若い子にも言いたいのは、バカなうちに1回でいいから死ぬ気になっておきなさいと。人間って知恵を付けたら絶対に何にもしないんだから!(『QJ』より)

*1:当初は、“深夜ドラマ番長”の異名を持つ大根仁との対談という企画だったものの、結果マツコの独壇場だったため、大根がインタビュー形式にするよう編集部に申し出た、という経緯があるとのこと。